研究課題/領域番号 |
18H01328
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田上 俊輔 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, ユニットリーダー (40586939)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | RNAポリメラーゼ / 生命の起原 / RNA / ペプチド |
研究実績の概要 |
生命がどのように誕生したかは生物学に残された最も大きな謎の1つである.現存する生命の遺伝子発現機構は複数の分子種 (DNA,RNA,タンパク質) の共依存によって成り立っているが,そのような複雑な系が如何にして誕生・進化してきたのかは生命を理解する上で特に本質的な問いであると言える.これらの分子種の中ではRNAから進化が開始したという仮説 (RNAワールド仮説) が有力であり,その後,RNAとタンパク質の共進化により精巧な遺伝子発現機構に進化してきたと推測される.そこで本研究では,初期生命におけるRNAとタンパク質の共進化のプロセスを実験的に再現することを試みる.そのために, 人工的なRNA酵素 (リボザイム) の実験系をモデルに用い,RNA単独では克服できない課題を原始的なペプチド・タンパク質の添加により解決することで,「RNAワールドにおいて,なぜタンパク質が必要とされ,どのように進化が進行したか」を解明する.今年度は,正電荷をもったペプチドによるアミロイド形成,液-液相分離形成などを行い,そのような自己集合するペプチドのリボザイム活性への影響を調べている.これまでにテストした自己集合ペプチドはRNAとよく結合はするものの,リボザイムの活性を上昇させるようなものは得られていない.今後はRNA結合自己集合ペプチドのなかでも,リボザイムの活性やRNAの安定性を向上させるペプチドの探索を進める.また,今年度はタンパク質のRNAポリメラーゼの中心構造を抜き出す実験を行った.いくつかのデザインについては可溶化に成功したが,その後の性状分析ではきちんとしたコンフォメーションに折り畳まっているという確認が取れなかった.そこで,RNAポリメラーゼの活性部位と同様のフォールドを持つタンパク質を改変し何らかの活性をもたせる試みもスタートしている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で正電荷をもったペプチド(オリゴリジン)がRNA同士の集合を助けることによってリボザイムの活性を上昇させることが確認されていた.そこで,今年度は,正電荷をもつアミノ酸と疎水性アミノ酸を組み合わせることによって,正電荷を持ち,なおかつ自己集合するペプチドを作成した.この研究で,RNAに結合するアミロイド形成ペプチドや,RNAと凝集し液-液相分離をつくるペプチドなどを得ることが出来た.しかし,これまでにテストした自己集合ペプチドはRNAとよく結合はするものの,リボザイムの活性を上昇させるようなものは得られていない.今後はRNA結合自己集合ペプチドのなかでも,リボザイムの活性やRNAの安定性を向上させるペプチドの探索を進める. また,今年度はタンパク質のRNAポリメラーゼの中心構造を抜き出す実験を行った.いくつかのデザインについては可溶化に成功したが,その後の性状分析ではきちんとしたコンフォメーションに折り畳まっているという確認が取れなかった.今後はコンピュータシミュレーションを用いた安定な配列デザインなども手法に取り組み,原始RNAポリメラーゼの再現を進めていく.さらに,RNAポリメラーゼの活性部位と同様のフォールドを持つタンパク質を改変し何らかの活性をもたせる試みもスタートした.RNAポリメラーゼ活性部位に見られるDPBBドメインは多くのタンパク質で見られるフォールドであるが,我々は原始的なタンパク質からよく可溶化・フォールドするDPBBドメインを得ることが出来た.今後さらにこのDPBBドメインにRNAポリメラーゼの活性ループを移植することで,何らかの活性をもつDPBBドメインの取得を目指す.
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今後の研究の推進方策 |
アミロイドや液-液相分離を形成するRNA結合自己集合ペプチドのなかでも,リボザイムの活性やRNAの安定性を向上させるペプチドの探索を進める.さらに,自己集合するペプチドを利用して,環境中でのRNAを濃縮するシステムを構築し,自己複製するRNA・ペプチド系を今後形成するための足場とする. また, RNAポリメラーゼの中心構造を抜き出す実験については,はコンピュータシミュレーションを用いた安定な配列デザインなども手法に取り組み,原始RNAポリメラーゼの再現を進めていく.さらに,以外の原始的なタンパク質からよく可溶化・フォールドするDPBBドメインを得ることもできたので,このDPBBドメインにRNAポリメラーゼの活性ループを移植することで,何らかの活性をもつDPBBドメインの取得を目指す.DPBBドメインは内部に偽2回対称性を持つため,もともとは更に短いペプチドが2量体を形成することで誕生したと考えられている.そこで,可溶化したDPBBドメインの配列を完全2回対象化し,さらに短いペプチドからDPBBドメインを再構成することも目指す.
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