生命がどのように誕生したかは生物学に残された最も大きな謎の1つである.現存する生命の遺伝子発現機構は複数の分子種 (DNA,RNA,タンパク質) の共依存によって成り立っているが,そのような複雑な系が如何にして誕生・進化してきたのかは生命を理解する上で特に本質的な問いであると言える.これらの分子種の中ではRNAから進化が開始したという仮説 (RNAワールド仮説) が有力であり,その後,RNAとタンパク質の共進化により精巧な遺伝子発現機構に進化してきたと推測される.そこで本研究では,初期生命におけるRNAとタンパク質の共進化のプロセスを実験的に再現することを試みる.そのために, 人工的なRNA酵素 (リボザイム) の実験系をモデルに用い,RNA単独では克服できない課題を原始的なペプチド・タンパク質の添加により解決することで,「RNAワールドにおいて,なぜタンパク質が必要とされ,どのように進化が進行したか」を解明する.今年度は,正電荷をもったペプチドによるアミロイド形成を行い,そのような自己集合するペプチドのリボザイム活性への影響を調べている.その中で条件特異的にRNAポリメラーゼリボザイムの活性を上昇させるものを発見することができた.また,今年度はタンパク質のRNAポリメラーゼの中心構造に保存されている太古のタンパク質構造を短いペプチドで再現する実験を行った.その結果わずか7種類のアミノ酸で,古代タンパク質を再現することに成功した.
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