研究課題/領域番号 |
18H01334
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 展 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (70550143)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | セル状固体 / 変形遷移 / 動的変形挙動 / 粘弾性特性 / 非線形構造力学 |
研究実績の概要 |
近年,微視的内部構造を制御して機能・特性を発現するセル状固体の研究開発が盛んであり,大変形を伴うセル状固体の非線形力学特性を適切に表現できるモデルが必要とされている.本研究課題では,セル状固体の骨格を形成する接合部(節)に着目して,静解析・動解析によってセル状固体の特殊な変形機構(変形遷移メカニズムおよび負のポアソン比を示す変形膨張特性)の解明に注力する. 変形遷移メカニズムに関する研究では,2019年度に構築した非平衡粘弾性システムの臨界状態を表す理論解の導出に着手した.3元連立微分方程式で記述できる本システムでは,垂直方向のダンパの粘性係数が遷移現象に寄与することが分かった.そして,粘性係数の特殊な条件では制約付きの2元連立微分方程式に帰着し,さらに極座標変換によって完全な2元連立微分方程式に次数を減らすことができた.上記と並行して,単軸強制振動を受ける周期セル構造体のマルチボディダイナミクス解析を行ったところ,角周波数に依存して変形遷移メカニズムに類似する変形振動パターンが現れることが分かり,新しい振動現象を示唆する数値解析結果を得ることができた. 負のポアソン比を示す3次元セル構造体の研究では,2019年度に構築した数理モデルによって予測されたゼロ剛性の変形特性を詳しく調べるため,稜共有型四面体の慣性モーメントを考慮した運動方程式を定式化した.そして,そのモーダル解析と周波数応答解析によって超低剛性で励起される低周波数モード(スロー振動)を解析的に求めて,負のポアソン比を伴う新しい振動特性を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【研究実績の概要】で示したとおり,2020年度は変形遷移メカニズムをもつ周期セル構造を簡略化した微分方程式で記述し,極座標変換による次数低減に成功した.しかし,極座標変換によって新たな非線形項を現れ,分岐軌道の理論的解明には至らなかった.一方,機構解析ソフトウェアを用いて周期セル構造の強制振動解析を行い,振動しながら変形遷移する特殊な変形挙動を求めることができた.負のポアソン比をもつ3次元構造では,稜共有型四面体ユニットの慣性モーメントを考慮した動力学モデルを構築した.そして,膨張収縮変形と低周波数モードが合わさった振動機構を見出し,周期構造がもつ新しい力学機能を提示することができた. 上記2種類の周期セル構造体に対して解析的な研究は順調に進んでいる一方,構造模型を用いた圧縮試験では変形遷移メカニズムの具現化が達成されていない.そのため,本研究課題の進捗状況を「(3)やや遅れている。」と判断する.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は【研究実績の概要】で述べた研究成果をベースにして,2020年度に達成できなかった変形遷移メカニズムの理論的解明に注力する.はじめに,次数低減によって得られた2元連立微分方程式の近似方法を模索し,最小限の非線形項で構成されたモデルを提案する.そして,より簡易な非線形モデルから変形遷移メカニズムを支配する臨界負荷速度とその分岐軌道の解析解を導出する.また,機構解析で予測された2種類の幾何学パターンに遷移する振動現象を理解するために,正方リンクの慣性項を考慮した動力学モデルの開発に取り組む.構造模型を用いた変形遷移メカニズムの計測については,骨組構造の開発は完了しているもののバネ・ダンパ要素の部品選定に難航しているため,ダンパ要素を合成ゴムで代替するなどの検討を図る. 負のポアソン比をもつセル構造体の研究では,稜共有型四面体ユニットによるモデリングと振動解析が達成されているため,モーダル解析と周波数応答解析の研究データを整理する段階に入る.2020年度はさらに四面体のゆがみ変形を考慮したマルチボディダイナミクスモデルを開発し,理論的な予測が困難である非線形変形挙動の解明に取り組む. 2021年度は本研究期間の最終年度にあたる.これまでの研究結果を総合して,英文ジャーナルへの論文投稿や国内学会・国際会議での研究発表を行い,本研究成果を国内外へ発信する.
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