研究課題/領域番号 |
18H01340
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
後藤 真宏 大分大学, 理工学部, 教授 (30170468)
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研究分担者 |
薬師寺 輝敏 大分工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (90210228)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 銅合金 / 不連続析出 / 疲労 / 組織 / 強変形加工 |
研究実績の概要 |
本研究は,銅合金の「強度と導電性」の二律相反関係を打ち破るため,利用されていない不連続析出相(過時効組織)を強変形加工によりナノファイバー組織に改変し,二律相反関係を打破ること,強変形加工により生じる微細粒組織に注目して耐疲労特性の向上を図ることを目的とする。そのため,① 通常時効組織,② 過時効組織(不連続析出相),③ ナノファイバー過時効組織および各種銅材の超微細粒組織の疲労特性に関する研究を行った。令和2年度得た成果を以下に示す。 ①Cu-6Ni-1.5Siでは粒界付近に析出物が枯渇した領域(PFZ)が生成し,これが疲労強度の低下の原因であった。PFZが発生しない溶体化処理を検討し,溶体化処理の冷却速度を低下することでPFZの発生を抑えた。すなわち,冷却方法を水冷から空冷に変えたところ粒界付近のPFZが消滅し,これが粒界き裂の発生を抑制し疲労強度の向上をもたらすことを明らかにした。 ②過時効により組織全体を不連続析出相にした銅合金の組織とき裂発生特性を調べ,き裂が不連続組織内でなく粒界から発生し,粒界付近のPFZが消滅することを見出した。すなわち,通常時効材に比べ過時効材の静的強度は低下するが疲労強度が低下しないのは,過時効材にPFZが存在しないためである。また,Ni,Siの添加量の減少はそれが1%程度でも不連続析出物の一様な生成を困難にし,Ni の6%添加がファイバー状Ni2Siの生成に適することを示した。 ③不連続析出材を80%の圧延加工して作成したナノファイバー過時効材の引張と疲労試験を行い,通常時効材より引張強さが6%, 疲労強度が50%増加することを示した。更に,導電性(IACS)は60%増加し,強度と導電性の優れた材料であることを確認した。これまで解明されていないECAPによる微細粒銅材のき裂発生機構を調べ,典型的な3パターンのき裂発生機構を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的達成のため,① 通常時効組織(連続析出相),② 過時効組織(不連続析出相)および③ ナノファイバー過時効組織と強変形微細粒組織,それぞれについて創生手法,組織構造,強度特性に関する研究を行った。現在までの進捗状況を下記に示す。 ①異なる溶体化処理前の圧延(圧延なし,冷間圧延,熱間圧延)を施して作製したCu-6Ni-1.5Siの組織,機械的性質,疲労強度を明らかにした。組織と疲労特性の検討から,熱加工処理条件を変えても疲労強度がそれほど向上しない原因を特定した。さらに,溶体化処理の冷却方法を変えれば,疲労強度が増加することを明らかにした。項目①に関しては概ね計画通り進んでいると言える。 ②不連続析出相が疲労強度特性に及ぼす影響を調べ,通常時効材より引張強さが低下するにも関わらず,疲労強度(S-N特性)に差が生じない結果を得た。その原因を特定するためには,き裂発生に関係する組織を明らかにする必要がある。時効前の結晶粒界が明確に判別できる腐食を施した試験片を使い組織観察と疲労過程の連続観察を行った結果,旧粒界のPFZが消滅したこと,き裂が旧粒界から発生したことが明らかになった。これらが引張強さの劣る過時効材の疲労強度が通常時効材と変わらない原因であった。項目②に関して概ね計画通り進んでいると判断した。 ③80%の圧延により組織がナノファイバー化しできることを明らかにした。この材料を用いて引張試験と疲労試験を行った結果,通常時効材より引張強さが1.06倍,疲労強度が1.5倍になることを明らかにした。更に,導電性を測定したところ1.6倍を得た。また,超微細結晶粒銅材を対象に耐疲労強度向上のため解明が必要なき裂発生形態を調べ,典型的な3パターンのき裂発生機構を明らかにした。項目③は概ね計画通り進んでいると言える。 以上を総合した結果「おおむね順調に進展している」と結論した。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的達成のため,① 通常時効組織(連続析出相),② 過時効組織(不連続析出相)および③ ナノファイバー過時効組織と強変形微細粒組織,それぞれについて創生手法,組織構造,強度特性に関する研究を進める。今後の推進方策を下記の通り項目ごとに示す。 ①令和2年度の研究から, 熱加工処理条件(特に溶体化処理)を工夫し,溶体化処理における冷却速度を遅くすることで,静的強度は多少減少するがPFZの生成は抑えられることを明らかにした。また,組織観察と疲労試験を行い,疲労限度が向上する物理的背景を明らかにした。本年度は疲労挙動を詳細に調べ,開発した材料の組織とき裂発生・進展機構を明らかにする. ②昨年度は,過時効により組織全体が不連続析出相に変態した銅合金のき裂発生挙動を調べ,き裂が粒内の不連続組織内でなく,旧結晶粒界から発生することを明らかにした.また,過時効材の静的強度が低下するにも関わらず疲労強度が低下しない理由は,過時効材の粒界からPFZが消滅したであることを明らかにした.今年度は,熱加工条件を変えた過時効材の組織と疲労挙動を調べ,更なる疲労強度の向上を目指す. ③昨年度は,圧延率80%により作製したナノファイバー過時効材の疲労試験を行い,通常時効材に比べて引張強さは1.1倍,導電性は1.6倍,疲労限度は1.5倍に増加することを示し本件課題の当初の目的を達成したことを確認した.本年度は,コスト削減から圧延率を低くした材料を作成しその有効性を調べる.切削摩擦加工により作製した材料については,疲労強度が著しく向上することを明らかにした.今年度は,強度向上の物理的背景を解明する.また,強変形加工による超微細粒銅については,き裂発生機構を解明したので,本年度はき裂進展特性の物理的背景および通常結晶粒寸法の材料と異なる表面損傷発生機構の解明を行う.
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