研究課題/領域番号 |
18H01341
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
川田 宏之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20177702)
|
研究分担者 |
白須 圭一 東北大学, 工学研究科, 准教授 (20757679)
荒尾 与史彦 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (40449335)
細井 厚志 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (60424800)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | カーボンナノチューブ / 強化繊維 / 気相合成法 |
研究実績の概要 |
本研究では世界最高強度を有するカーボンナノチューブ(CNT)紡績糸の創製を目標としている.CNT紡績糸は,触媒担持化学気相成長法によってシリコン基板上に規則正しく垂直成長したCNTフォレストよりCNTを連続的に引き出し,それを撚り合わせることで作製されることが一般的である.本研究ではCNT紡績糸を構成するCNTの配向性改善を目的として,微細径のダイスにCNTを通すことで撚り角の無い無撚CNT糸を作製し,従来のCNT紡績糸と比較して高い機械的特性を得ている. このことから,無撚CNT糸に対して作製条件の最適化やポリマー含浸処理による高密度化及び架橋構造の付与,CNTの高純度化を目的とした熱処理条件の検討などを行ってきた.昨年度はCNT単体の物性値が紡績糸の機械的特性に及ぼす影響の評価を行い,CNTの薄層化及び細径化が紡績糸の高強度化に有効であることが確認された. 本年度は無撚CNT糸の更なる高強度化を目的として,従来の5-10層,直径が10nmのCNT及び1-5層,直径が5.6nmの薄層かつ細径な2種類のCNTについて,それぞれCNT単体及び高密度化処理を施した無撚CNT糸の機械的特性評価を行った結果,CNTの薄層化・細径化に伴いCNT単体,CNT糸の強度が共に向上し,CNT単体及びCNT糸の尺度係数はそれぞれ11.1GPa,2.43GPaとなった.また無撚CNT糸に対しコーミング処理及び延伸処理を行った結果,CNTの配向性向上に伴う強度の向上が確認された.更に実験的に得られたCNTの物性値や強度及びそのばらつき,分子動力学(MD)法を用いた解析により得られた界面せん断強度をCurtinモデルに適用した結果,2種類の無撚CNT糸の実験値と傾向が一致し,また実験値との相対誤差が6~17%の精度でCNT糸の強度予測が可能であることが確認された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では高強度無撚CNT糸の創製を目的としている.これまでにCNTの合成条件検討やCNT紡績糸作製条件の最適化,ポリマー含浸による無撚CNT糸の高強度化を行い,無撚CNT糸の機械的特性の向上に成功してきた.これまでに得られた知見を複合的に最適化することで機械的特性の改善を重ねており,研究の進捗状況としては概ね順調である.現在は無撚CNT糸の更なる機械的特性向上を目的とし,Curtinモデルに基づく強度予測式及び分子動力学計算を用いた各種物性値の検討や,無撚CNT糸の寸法効果による影響の解析的な評価などを行っている. また昨年度CNT単体の走査電子顕微鏡(SEM)内その場観察引張試験を実施するための設備導入を行ったことにより,CNT単体の各種物性値評価が可能となった.これによりCNT単体及び無撚CNT糸双方に関して多様な評価が可能となり,CNT単体の特性が無撚CNT糸機械的特性に及ぼす影響を複数の観点より考察することが可能となっている.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の中で,無撚CNT糸の機械的特性を向上させる手法として,CNT無撚糸を構成するCNT単体の薄層化及び細径化が有効であることが確認された.本年度は無撚CNT糸の更なる高強度化を目的として,CNT単体の長さや密度といった他の物性値が無撚CNT糸の機械的特性に及ぼす影響の評価を行う.無撚CNT糸についても,直径や評点間長さが機械的特性に及ぼす影響について評価を行い,寸法効果について検証を行う.そして引き続き強度予測モデルや分子動力学計算を用いて解析的にCNT間相互作用力に関する知見を深め,CNT紡績糸の強度発現機構の解明を目指す. また本年度は,従来の触媒担持化学気相成長法により合成されたCNTだけではなく,より薄層かつ細径で高い結晶性を有するCNTが得られることで知られる,浮遊触媒化学気相成長法により合成されたCNTから作製されたCNT紡績糸に関しても各種評価を行い,従来の無撚CNT糸との比較・検討を行う.これによりCNT紡績糸の強度を決定する要因を明らかにするとともに,CNT紡績糸の強度向上に向けた方針を示すことを目標とする.浮遊触媒法CNT糸に関してもこれまでの知見を反映しポリマー含浸処理による高密度化を行うが,合成方法の違いにより結晶性等の様々な物性値が大きく異なるため,ポリマー含浸処理の最適条件が異なることが予想される.従って浮遊触媒法CNT糸に関しては別途ポリマー含浸処理条件の検討を行い,更なる高強度化を行う.
|