研究課題/領域番号 |
18H01344
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
高橋 可昌 関西大学, システム理工学部, 准教授 (20611122)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水素脆性 |
研究実績の概要 |
本研究は、多結晶材料における任意の結晶粒界からマイクロ試験片を採取し、水素の有無による破壊強度特性の違いをマイクロ実験により調べるとともに、粒界に沿った破壊のメカニズムをこれまでに無い精密さで解明することを目的としている。鍵となるのは、マイクロ材料特有の離散すべり(大規模な塑性変形)の発生を如何に抑制できるか、という点にある。先行研究において着想を得た試料表面への局所コーティング技法等を駆使してすべりを抑制し、粒界に沿った脆性的な破壊を発現させ、定量的な粒界水素脆性評価を目指している。 三ヶ年計画の初年度(H30)は、局所コーティング技法の可否について集中的な検討を実施した。当初、固体ガス源からのガス供給を安定に行うことができる新規ガスインジェクション装置を高分解能の走査型電子顕微鏡(SEM)に設置する検討を行った。しかし装置の制御に関する避けがたい問題が判明した。そこで、代案として集束イオンビーム装置(FIB)に付属するデポジション機能を最大限に生かし、サブミクロンスケールのサンプルにダメージを与えることなくコーティングする技術開発に注力した。その結果、目標となる粒界のごく近傍に高い精度かつ再現性をもって局所コーティングすることに成功した。このコーティングを付した試料を用いて破壊実験を行ったところ、コーティングが無い場合に比べて塑性変形を抑制できることが確認された。しかし、定量的な粒界強度評価へと繋げる上では依然として変形の度合いが大きいことも判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究遂行上重要となる実験装置(SEM用新規ガスインジェクション装置)の詳細検討に当初着手したが、装置の制御(SEMシステム本体との連動)に関する避けがたい問題が判明し、開発期間・価格の面において断念せざるをえない状況となった。そこで、既存の集束イオンビーム装置(FIB)に付属するデポジション機能を最大限に生かす代案の検討に早急に着手した。試行錯誤の結果、目標となる粒界のごく近傍に高い精度かつ再現性をもって局所コーティングすることに成功し、H31年度以降の研究計画遂行に道筋を付けることができた。 以上のように破壊実験に関する要素技術はほぼ完成し、データの取得にも漕ぎ出した。また、計画二年目(H31)の実験内容(電子エネルギー損失分光法; Electron Energy Loss Spectrometry、EELS)による材料中の水素存在状態解析についても一部検討を開始した。これらの点より、当初計画に照らした進捗は概ね順調あると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度(H30)に開発した局所コーティング法を多結晶材料(Ni3Al)から採取した粒界マイクロサンプルに適用し、超高圧TEM中におけるその場破壊実験を実施した。その結果、コーティングが無い場合に比べて塑性変形を抑制できることが確認された。しかし同時に、定量的な粒界強度評価へと繋げる上では依然として塑性変形の程度が大きいことも判明した。 そこで、今年度(H31)は、より延性が少ない材料へと変え、上記のコーティング技術と合わせる等の方策により、脆性的な破壊へと近付ける実験を行う。具体的には、析出強化を施した材料や加工硬化させた材料(母相を強化させた材料)の使用を考えている。H31年度はさらに、粒界に存在する水素のその場検出実験にも着手する。具体的には、試料周辺に局所ガス環境を作ることが可能な超高圧TEMを用いて、粒界近傍のEELSスペクトルが水素ガスの有無によってどのように変化するのかを捉える実験に着手する予定である。
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