研究課題/領域番号 |
18H01346
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
國枝 正典 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90178012)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ワイヤ放電加工 / シミュレーション / ワイヤ変位センサ / 加工精度 / 加工反力 / ワイヤ振動 / インプロセス測定 |
研究実績の概要 |
ワイヤ放電加工の加工精度の向上のためには、ワイヤ電極の挙動すなわち振動やたわみを正確にシミュレーションする必要がある。ワイヤ電極に作用する力には、静電引力、電磁力、流体力、放電反力があり、放電反力以外は数値解析により計算できる。しかし、放電反力の計算は困難であり、しかも工作物の板厚、切り込み深さ、切断形状によって加工中に刻々変化する。しかも、放電パルス条件や工作物材料によっても変化する。そこで、加工中の放電反力を測定するために、加工テーブルから所定の高さでのワイヤ変位を測定可能な2軸の光学センサを開発した。 次に、開発したセンサを加工機に実装し、加工中のワイヤ変位を測定した。そして、工作物に対向しているワイヤに沿って、ランダムな位置に放電が生じるとのモデルの下に、仮定した放電反力を用いて計算したワイヤ変位が、センサを用いて得られた測定値と一致するように放電反力を同定した。その結果、荒加工では切込み深さの増大とともに加工反力が大きくなることが明らかとなった。 仕上げ加工では、工作物面の接線方向のワイヤ振動よりも垂直方向の振動が小さいことがわかった。これは、拘束力の大小が原因であると考えられる。また、送り速度の違い、工作物板厚の変化、上下ノズルからの加工液の噴流流量がワイヤのたわみに及ぼす影響を測定した。そして、加工された仕上げ面の切り込み深さと比較し、ワイヤ挙動が工作物の加工精度に及ぼす影響を考察した。 以上の研究成果により、光学センサを用いて加工中のワイヤ変位が測定できることと、シミュレーションとの比較によってインプロセスで加工反力の変化が測定できることが明らかとなった。また、測定した加工反力を用いたワイヤ挙動のシミュレーションによって、加工精度をリアルタイムでモニタリングできる可能性があることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
加工中のワイヤ変位を測定可能な光学式センサは筆者らによってすでに開発済みであったが、ワイヤに垂直な平面内の2次元的なワイヤ変位を測定できるように、2基のセンサを直交する方向に配置した。また、加工の妨げにならない位置にセンサを設置し、かつ放電によって生じる気泡や加工屑がレーザ光を遮らないように、光路が常に清浄な加工液で満たされるように、加工液の噴流ノズル下にセンサを設置した。さらに、放電時に生じる電磁ノイズの影響はフィルタでカットした結果、2kHzまでの周波数範囲で、1ミクロンの精度でワイヤ変位が測定可能なことを確認した。 上記の成果により、リアルタイムでワイヤ変位が測定可能であることは明らかとなったが、実用的にはセンサをさらに小型化する必要がある。そして、センサを現状の加工機の構造を変えることなく、ワイヤ電極と同軸に取り付けられた加工液噴流ノズルの中に組み込む必要がある。この点、開発した光学式センサは、光ファイバを照射側と受光側の両方に使用しているため、小型化は困難ではないと考えられる。 ワイヤ挙動のシミュレーションについては、放電位置、すなわち加工反力の作用点は工作物板厚の範囲でランダムであると仮定した。また、放電による工作物の除去や工作物形状の変化は考慮されておらず、形状が既知の切断溝内にワイヤが懸架されたモデルを用いてシミュレーションを行った。また、ワイヤに作用する力についても、静電力、電磁力、流体力は、まだ考慮されていない。
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今後の研究の推進方策 |
1.加工精度シミュレーションプログラムの開発:放電点位置の決定→放電点での工作物の除去→ワイヤ振動の計算→加工送り→放電点位置の決定、からなるループを繰返すことにより、除去を考慮に入れた加工精度シミュレーションを作成する。このとき、放電反力だけではなく、静電力、電磁力、流体力も考慮してワイヤ振動の計算を行う。 2.放電位置決定アルゴリズムの開発:単発放電実験を繰り返し、電圧が印加されてから放電が生じるまでの放電遅れ時間を測定する。ギャップ長、工作物の板厚を変えて放電遅れ時間を測定し、指数分布に従う放電遅れ時間をギャップ長と放電面積をパラメータとして定式化する。そして、この定式化されたデータベースを用いて、確率論的に放電点の位置を決定するサブプログラムを作成する。これを、上記の加工精度シミュレーションに組み込む。 3.加工反力のインプロセス測定:センサをさらに小型化し、加工液噴流ノズル内に組み込む。これにより、加工の妨げにならないワイヤ変位測定を可能にする。 4.加工精度シミュレーションの実行と評価:センサを用いて放電反力をインプロセス測定する。そして、リアルタイムで加工精度シミュレーションを実行し、加工と同時に工作物形状を計算する。一方、加工された工作物形状を、形状測定機を用いて測定し、シミュレーション結果と比較する。これによって、開発したシミュレーションの精度を評価し、問題点が見つかれば改良を行う。また、加工精度の向上のために、放電パルス条件や送り制御を適応制御する方法を考案し、その効果を実証する。
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