研究課題/領域番号 |
18H01348
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
夏 恒 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40345335)
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研究分担者 |
花崎 逸雄 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (10446734)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 電解加工 / 難加工材 / 電流密度 / 不働態被膜 / 吸引工具 |
研究実績の概要 |
電気化学の原理を利用した電解加工は、電気化学反応により加工表面に不働態被膜(耐食性を持つ薄膜)が生じやすいチタン合金やSiCのような難加工材の走査加工を行うと、加工面が部分的に加工されたりされなかったりする不安定な加工現象が生じることが明らかになった。そこで、本研究では、従来の吸引工具に補助陽極を実装することにより、電流域を絞り込み、低電流密度域に触れる時間を短くし、材料の溶出を妨げるほどの不働態被膜が生じず難加工材の走査電解加工が実現できることを目的としている。 今年度は、補助陽極を有する電解液吸引工具を設計・製作し、加工実験により、補助陽極の有効性を確認した。また、有限要素法を用いて2次元軸対称モデルを構築し、極間における電位分布、電流密度分布の数値解析を行い、低電流密度領域の制限効果を検証した。なお、電解液の存在領域が異なる電解液吸引工具を作成し、加工実験によって得られた加工面の元素マッピングを行うことにより、不働態被膜の発生状況と電流密度の関係を調査した。その結果、①加工実験により、補助陽極を有する吸引工具を用いた加工穴の直径が従来の吸引工具より小さくなったことと、数値解析により、補助陽極を有する吸引工具の低電流密度領域が小さくなったことから、補助陽極の有効性が確認された。②加工実験により、極間距離の10 μm程度の設定誤差は、加工深さに影響を与えるが、加工穴直径には影響を与えないことや、補助陽極の厚さは加工穴直径に影響を与えないが、補助陽極厚さを厚くすると、補助陽極に流れる電流と気泡発生量が増加し、加工効率が悪くなることが明らかとなった。③チタン合金の電解加工において、電解液が介在することによって酸化被膜が生成されることや、被膜の生成は電解液流れに影響されることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基礎実験の結果と考察により、加工効率向上のため、工具と補助電極の間に流れる電流を小さくするため補助電極の厚さを1㎜と薄くし、また補助電極の消耗を防ぐため、グラファイトを利用して、補助陽極を有する電解液吸引工具を新たに設計・製作した。また、加工実験を行い、加工特性および補助電極の消耗状況を調べた。また、数値解析により、極間の電位分布、電流密度分布を調べ、加工結果との比較により、提案工具の有効性を確認した。なお、電解液吸引工具によるチタン合金の電解加工を行い、加工表面の元素分析を行った。さらに、電解液を内筒から吸引する場合と外筒から吸引する場合の加工痕および極間における気泡の挙動を観察し、電解液流れ方向の影響を明らかにした。上記により、ほぼ計画通りに研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
補助陽極を有する電解液吸引工具が静止している状態において、低電流密度領域の絞り込み効果が確認され、電解液存在領域が加工表面の酸素発生範囲に及ぼす影響が明らかとなったが、提案電極を走査した場合の加工特性や、補助陽極の消耗対策、不働態被膜発生の定量分析、工具の走査による加工面の不動態被膜の発生と崩壊の主な影響因子の解明はまだ不十分である。また、解析結果において電流密度分布がほぼ等しい部分でも、マッピング結果では被膜の生成に違いが生じていることから、電流密度の大きさのみが被膜の生成に影響するのではなく、電解液流れや酸素の発生等が大きく影響を与えていると考えられ、被膜生成には更なる調査が必要である。そこで、今後は、①走査電解加工の特性調査、②補助陽極の消耗対策、③不働態被膜発生の定量分析、④不働態被膜生成と破壊の主な因子の特定を行う予定である。具体的に、①ステンレスやインコネルのような不働態被膜の発生が少ない材料と、チタン合金やSiCのような不働態被膜の発生が多い材料に対し、走査加工を行い、加工痕形状の違いにより、走査電解加工の特性を調べる。②絞込工具は絞込電極が工作物と同様に陽極側に接続するため、材料溶出を防ぐために水素ガスの発生が支配的な標準電極電位の高い材料を用いて、消耗対策を取り、その効果を検証する。③不働態被膜の生成と破壊は、印加電圧、走査速度、材料などの複数因子の影響を受けるため、各条件を変えて加工現象の観察と加工量データの収集を行い、X線光分子分光分析装置(XPS)により表面分析を行い、不動態被膜の発生を定量的に分析する。④上記の実験データより、不動態被膜生成と破壊の主な因子を特定する。また、これらの結果を電流密度解析結果や走査速度と照合し、不働態被膜の生成から破壊までの過程を解明する。
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