本研究では、従来の吸引工具に補助陽極を実装し、電流域を絞り込み、低電流密度域に触れる時間を短くし、材料の溶出を妨げるほどの不働態被膜が生じず難加工材の走査電解加工が実現できることを目的としている。 今年度は、走査電解加工において、不働態被膜と電解液流れが走査電解加工に及ぼす影響の調査と、補助陽極を付与した電解液吸引工具の有効性検証を行った。 不働態被膜の影響を明らかにするため、実際の電解液領域を観察し、解析によって電流密度分布を調べた。その結果、チタン合金の走査加工において、加工前の低電流密度領域で生成される不働態被膜が均一な加工を妨げることが明らかとなったため、チタン合金の走査電解加工における加工現象モデルを提案した。提案したモデルを検証するため、停止状態での走査電解加工の再現を試みた。その結果、被膜の生成を抑制し、除去加工を十分に行うためには、1 秒以下の低電流密度時間と、0.67 秒以上の加工電圧を印加する時間が必要であることを明らかにした。また、陽極酸化により生成される不働態被膜が加工特性に及ぼす影響を調査し、被膜の影響は電極近傍で特に大きくなること、被膜生成時間が長いほど被膜は厚くなるが、引っ張り方向に応力が生じることで、局所的な加工が行われやすくなることが明らかとなった。 一方、電解液が中心に向かって流れる方式と、電解液が外側に向かって流れる方式によって、極間における電解液の流れと外部から吸引される空気の割合が異なり、加工特性も変化する。数値解析と加工実験により電解液流れ方向の影響を調べた結果、外側に向かって流れる方式の場合、加工痕が深くなり、加工面品質が向上することを明らかにした。また、走査電解加工においても、補助陽極を付与することで電流域が制限され、加工精度が向上すると同時に、加工部周辺の表面粗さが向上し、面品質が向上することを明らかにした。
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