研究課題/領域番号 |
18H01354
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 宏正 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (40187761)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 産業用X線CT装置 / リバースエンジニアリング / アセンブリ解析 / 画像処理 |
研究実績の概要 |
機械のアセンブリ品を産業用X線CT装置により丸ごとスキャンした3次元CT画像を用いて、アセンブリ内の部品間の隙間を評価・検査する手法について研究を行った。アセンブリ品の隙間の評価としては、2部品の間の隙間を求めるために、本研究では、マルチフェーズ陰関数表現をベースとして、異部品間の隙間の中立面を計算する方法とプロトタイププログラムを開発した。マルチフェース陰関数は、各部品からの距離を値として持つように、CT画像の置かれた格子空間で計算した。さらに、格子空間で補間を行うことによって、2部品から距離が同じ値を取る部分を、中立面として算出した。理論的には、この距離値の2倍が隙間量となる。プロトタイププログラムとしてこれを実装し実験を行った。実験では、性能検証用に様々な幅や形の隙間を3次元CADで設計して、3Dプリンタで造形することによってサンプル部品を作成してXCTでスキャンした。 これによって、研究計画通りに、マルチフェース陰関数による隙間量算出アルゴリズムを基本的な部分を開発できたと言える。しかし、実際には、この方法によって算出された値は、誤差が大きいことが分かった。今後は、まずそれを改善する必要がある。 また、隙間量とアセンブリのもつ品質との関係についても検討を進めた。これは、将来的に隙間量を使って、アセンブリの検査に適用しようとするための準備であるが、アセンブリにおける部品の拘束や組立性などと、隙間量の関係を文献等によって調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の計画としては、アセンブリ品のX線CT画像から、部品間の隙間量を計算する手法として、マルチフェーズ陰関数表現をベースとしたアルゴリズムの基本を考案し、それをプロトタイププログラムで検証をすることを目的とした。基本アルゴリズムの開発については、部品に対して符号付の距離場の計算をする方式を検討し、またそれをプログラムに実装した。このプログラムを検証するために、簡単な形状のアセンブリを3Dプリンタで作成し、それをX線CT装置で計測したデータを用いた。その結果、基本アルゴリズムが動作を確認でき、当初の計画を達成した。 しかし、以下のような点から、上記の区分と判断した。 1)開発したアルゴリズムでは、X線CT画像が不明瞭な部分などで、隙間量の計算精度が十分なかった。原因としては、中立面の位置が正しく計算できないために、それを用いた部品表面までの隙間量が正しく計算できていないことであることが分かった。2)また、実験については、より複雑なアセンブリへの適用を計画していたが、プロトタイプの計算速度が不十分なために、複雑な例題に対する適用ができなかった。実際の工業製品のサンプルを用意しX線CT装置による撮像も行ってはいたが、そのデータに適用することができなかった。3)そのために、成果発表等も、関連する研究のみの発表しかできておらず、平成31年度の発表に回した。 これらの問題を解決する方法については、いくつかアイデアがあるので、平成31年度の課題として取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、隙間量計算のアルゴリズムの改良を行う。 〇隙間量計算誤差を改善するために、アセンブリのCADデータを利用する。アセンブリのCADデータは、実部品に対して、形状としては誤差の無いものであり、これを使って、正確な中立面の計算を行う。計算方法は、X線CTデータに対するものと基本的には同じであり、CADデータで表された部品の表面からの距離をマルチフェーズ陰関数として計算し、距離が同じになる所を中立面とする。そして、この中立面を用いて、アセンブリのX線CTデータに対して、アセンブリの部品の表面までの距離を算出する。これによって、隙間量の計算の高精度化を行う。 〇また、当初の計画のように、アルゴリズムの効率化を行う。現在のプロトタイププログラムでは、個々の部品について、空間全体で距離場を計算しているために、計算範囲が非常に大きい。これを部品の近傍だけに制限をする。また、距離場の計算に、FAST MARCHING法と呼ばれる高速な手法を適用する。さらには、これらを並列計算化することによって、大幅に計算効率を上げることが期待される。 以上のような拡張によって、10部品から20部品程度からなるアセンブリ品について、隙間量を計算できるようになる。また、計算した隙間量をカラーマップによって、3次元的に可視化するソフトウェアを作成し、計算結果を実際の部品に対して擦り合わせ、評価を行う。 また、平成32年度までには、隙間量を検査する機能を実現することが目的であり、このようなカラーマップ表示などをベースにした検査方法についても検討を開始する。
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