研究課題/領域番号 |
18H01359
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
金 俊完 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (40401517)
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研究分担者 |
吉田 和弘 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (00220632)
嚴 祥仁 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (20551576)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マイクロポンプ / ECFジェット / オンサガー効果 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,安価で大量生産が可能であると同時に,世界一の高出力パワー密度を有するマイクロ液圧源を実現すること研究目的に,直流電圧の印加により電極間に活発な流れが発生する電界共役流体(ECF)の駆動原理とナノ(Nano)加工技術を融合した新たなマイクロポンプを開発している.本年度では,世界一の高出力パワー密度を有するマイクロ液圧源を開発するために,(1) ECFジェットの流動メカニズムの解明,(2)ECF電極形状の最適化の二つのアプローチによるデバイスを開発した. (1)ECFジェットの流動メカニズムの解明のシミュレーションによる最適化: オンサガー効果によるECFジェットの数学モデルを提案,構築し,シミュレーションによるECFジェットの予測を可能にする手法を確立した.ここで,オンサガー効果とは,絶縁性流体が極めて高い電界強度下にあるとき,この液体の導電率が電界強度に対して線形的に増加する現象である.ECFジェット可視化の実験結果と数値計算結果を比較することで提案したモデルの有効性を確認した. (2)ECF電極対の高集積化のための新たなECF電極形状の提案:ECFを作動流体とするマイクロポンプの出力パワー密度向上には電極の高アスペクト比化が重要である.高アスペクト比電極製作には裏面露光による多層UV-LIGAプロセスが有効であるが,電極のシードパターンへの配線には透明かつ低電気抵抗の配線が必要である.本研究では低電気抵抗の金と透明導電材料の酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide, ITO)を組み合わせた新たな配線を提案し,裏面露光による多層UV-LIGAプロセスの有効性を確認した.提案したプロセスを用いて高アスペクト比電極を持つECFマイクロポンプの製作を行い,製作したECFマイクロポンプの出力を計測し,その特性を評価した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ECFジェットを予測することを目的として,オンサガー効果を導入したECFジェットの数学モデルを提案した.オンサガー効果とは誘電性液体の導電率が電界強度に対して線形的に増加する現象である.オンサガー効果を導入することにより液体中に空間的な導電率の勾配が生じる.その結果,液体中の電荷分布が変化し,流体粒子にクーロン力による体積力が発生することで流動が生じる.まず,ECFのオンサガー値を決定することを目的としたECFの導電率測定実験を行い,ECF(FF909EHA)の値を2.72×10-7[m/V]に決定した.この値を提案した数学モデルに取り入れECFジェットによる流速の数値シミュレーションを行った.仮定するECFはFF909EHA2とし,電極のモデルには三角柱-スリット電極を採用した.次に,シミュレーン結果を検証するために,シミュレーションのモデルと同形状のECFマイクロデバイスをMEMSプロセスにより製作し,可視化実験による流速計測を行った.実験結果とシミュレーション結果を比較すると,ECFジェットの流速値は印加電圧1.0[kV]まで概ね一致した. また,高アスペクト比TPSEを製作可能な多層UV-LIGAプロセスを実現するために,低抵抗かつUV透過性の配線として新たにAu-ITO複合配線を提案した.Au-ITO複合配線を用いた多層UV-LIGAプロセスで高さ約600ミクロンのクォータ三角柱電極を製作し,配線抵抗の減少によって電極高さの差が改善されることを示した.ITO配線を用いた小形ECFマイクロポンプの特性実験を行い,従来寸法のECFマイクロポンプに対し1.5 kV以下の低電圧域で20倍もの高いパワー密度が得られた. 上記の研究成果から,本研究は順調に進んでいると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
ナノ加工技術を用いて,世界一の高出力パワー密度を有するマイクロ液圧源を開発するために,(1) CVD法による高アスペクト比CNT構造体の製作,(2) Deep-RIE法による高アスペクト比Si構造体の製作を行う. 化学気相蒸着(CVD)法を用いた高アスペクト比カーボンナノチューブ(CNT)成膜法と電気めっきを融合した新たなナノ加工プロセスを提案し,これを用いたECF電極対を製作し,その性能を評価する.CVD法によるCNT構造体の製作は非常に効率よく高アスペクト比の電極を製作できる方法であるが,この構造体が密でないため,ECFジェット用としては使用できない.この問題を解決するために電気めっきで構造体をコーティングする方法を開発する. また,電極高さを維持しながら電極の断面積を小さくすることで,単位面積当たりの電極対の数を増やすことができ,電極1対あたりの出力パワーは大きく変わらないと仮定すると,高密度電極対による高出力パワー密度が実現できる.今までの厚膜レジストと電解めっきによるMEMSプロセスでは2~3程度のアスペクト比が製作の限界であるため,新たに工夫したナノ加工プロセスを提案する.深堀反応性イオンエッチング(Deep RIE)を用いてシリコン電極対の作製する.アスペクト比50以上のものも原理的に可能であるため,電極対の密度を高めることができる.
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