機械における摺動表面の多くは潤滑油中に晒されており、潤滑下でのトライボロジー現象を真に理解するには、摺動条件下における固液界面の状態を正確に把握することが重要である。実機械においては、潤滑油中に複数の添加剤が配合されており、それらが摺動界面に分子鎖状の境界潤滑層を形成するとされているが、摺動条件下におけるそれらの動的挙動は明らかになっていない。そこで本研究では、申請者らがこれまでに立ち上げてきた量子ビームによる固液界面分析手法に摺動機構を組み込むことにより、摺動条件下における境界潤滑層の動的挙動を明らかにすることを目標とする。本年度は、コロナ禍により量子ビーム施設が一定期間封鎖となり、あいにく分析そのものの進展は多く得られなかったが、量子ビーム分析装置に搭載する装置を開発し、それによるデータ取得を完了した。具体的には、中性子反射率および放射光X線吸収微細構造解析ビームラインに搭載する面接触式摺動試験機の開発を完了し、新しいポリマー型摩擦調整剤(FM剤)を混入した潤滑油を用いて鉄表面間での摺動試験を行った。その結果、すべり速度が低速になると表面に吸着したFM剤の効果によって潤滑油の見かけ粘度が上がり、表面を摩擦摩耗から保護することが分かった。このようにすべり速度に応じて形態を変化させるポリマー型FMはこれまでにないものであり、エンジンオイル等への実応用が期待される。このポリマー型FMがすべり速度に応じて表面でどのような形態を採っているのかを調べるため、これから本ポリマー型FMを対象とした量子ビームオペランド分析を実施していく予定である。なお、実験は2021年5月末に実施予定であり、この1月に量子ビーム施設での安全審査を無事クリアしたことを申し添える。
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