研究課題/領域番号 |
18H01365
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
花崎 逸雄 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (10446734)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | PEDOT:PSS / セルロース / 導電性 / 電気抵抗 / 液滴 / 濡れ性 / 乾燥 / 成膜 |
研究実績の概要 |
インクジェットプリンティングの技術によりPEDOT:PSSという導電性ポリマーインクをセルロースナノファイバーで構成されているナノペーパーへ描画して配線を形成する際の素過程を実験的に追究した成果を学術雑誌論文として出版した.特に,インク液滴の着滴直後から乾燥するまでの動力学を,時系列画像を主な解析対象とした実験計測データ解析により明らかにした.液滴の乾燥過程は基板に対する濡れ性の影響を大いに受ける.ここで,インクジェット吐出による運動量効果により見かけ上の濡れ性が増える場合があることを確認した.これは重力による影響とは明確に区別されるものである.水と比べて導電性ポリマーインクではピニングの効果が現れることをガラス基板上でもナノペーパー上でも確認した.しかしながら,水も導電性ポリマーインクも,ナノペーパー上においては固液界面における液滴の径が一旦増加してから減少するという特異な現象を発見した.これはインクジェットによる運動量効果とみなすには時定数も大きく,ナノペーパーの表面における毛細管効果であると考えられる.このように,導電性ポリマーインクの特徴と,ナノペーパーの特徴を,それぞれの因子をある程度区別しながら取り扱い,両者が組み合わさることで現れる特徴を整理することができた.既往研究事例では,応用の観点から描画後の導電性の評価に注目が集まりがちである一方で,基礎的な力学現象としては液滴のジェット吐出や静的な濡れ性に焦点が当てられることが一般的である.これに対して,本研究では応用に供する物質を活用しながら着滴後の乾燥過程を緻密に解析して明らかにすることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノペーパー上へのインクジェットプリンターを用いた導電性インクの描画に関する研究は,これまで多くの事例が導電性の高さを理由とした銀ナノ粒子型の導電性インクに基づいている.しかし,長期的に見れば原料の豊かさも重要な因子であることは間違いなく,その観点からは導電性ポリマーインクの活用は普及に対して重要な可能性を秘めている.固体基板上の液滴乾燥は膨大な研究事例があるにもかかわらず,応用上重要なナノペーパー上の導電性ポリマーインクは複雑ゆえに未開拓な対象でもあった.結果的な導電性の性能に気を取られがちな中で,この点に注目してナノペーパー上へのPEDOT:PSSインクのインクジェット描画特性を評価し,それをインクの濡れ性と水を主成分とした分散媒の揮発の観点から系統的に整理できたことは意義深い.
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今後の研究の推進方策 |
水中におけるセルロースナノファイバーの微視的な構造状態を顕微鏡動画データ解析により追究し,それをナノペーパー作製プロセス技術の深化へいかしてゆく.また,ナノペーパー上への導電性ポリマーインクの描画特性を踏まえて,ナノペーパーをフレキシブルデバイス/ウェアラブルデバイスに活かすための設計技術につなげてゆく.それと並行して,具体的な基板としての機能を実証する例示に取り組んでいく.
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