本年度は特に,顕微鏡動画データ解析により多くの大きな成果が得られた.本研究代表者が提案した,コーヒーリング現象を微量のセルロースナノファイバーの添加により抑制する方法のメカニズムを解明した.インクジェット描画する液滴のコーヒーリング現象を抑制するには,インクジェット吐出時に粘度を低く抑えておくという必要条件がある.これに対して,吐出するインクにセルロースナノファイバーを微量添加しておくと,初期段階ではインクジェット装置に互換性のある低粘度を確保しながら,液滴乾燥の最終段階で高濃度になったCNF群が集団構造を形成して分散質の輸送を抑えるという,空間と時間の両面から現象を操る原理が明らかになった.また,セルロースナノファイバー分散水を乾燥させてナノペーパーを形成する際,初期の濃度が非平衡な乾燥過程でレオロジー特性の成り行きを変えることを明らかにした.従来は侵襲的なレオロジー測定かナノペーパーのSEM観察かという方法であったのに対し,乾燥過程の非侵襲的な解析により明らかになった.また,方法論についても進展があった.本研究代表者が提案した拡散係数の対数評価法(logarithmic measure)について,その数学的な基礎を解析解と共に確立することができた.この対数評価法とは,ランダムな変位のデータから複数の異なる拡散挙動が混在していることを検出し定量的に評価するものである.事前の個別的な知見も不要で,単に拡散係数の対数の次元で変位分布を評価するという,「コロンブスの卵」のような画期的な方法である.しかも,関連する最先端の機械学習アルゴリズムに基づいた手法と比較して同等の機能を示すことも実証できた.実装の著しい手軽さをも鑑みると,この対数評価法は極めて有用であると言える.
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