研究課題/領域番号 |
18H01372
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
土井 謙太郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20378798)
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研究分担者 |
川野 聡恭 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (00250837)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分子流体力学 / 電気流体力学 / イオン電流 / イオンクロマトグラフィ |
研究実績の概要 |
本研究は,微視的スケールの流体現象に関する学術深化と新奇流体計測技術の創出を目指し,「イオンで流れを創り」,「イオンで流れを測る」ための原理を確立することを目的としている.液中のイオン輸送が周囲溶媒の流動を引き起こす電気流体力学流れをはじめとするマイクロ・ナノスケールの微視的な流体現象を具現化し,微小ガラス電極を用いた流体計測手法を提案するとともに,不均一イオン流動場を利導したμイオンクロマトグラフィへと応用を図る.
平成30年度は,電気流体力学流れ駆動システムを構築するためのマイクロ・ナノ流路の設計と試作を行った.流路中の液体を帯電させるため,壁面間距離が600nmとなる流路を作製し,壁面の帯電が流体に及ぼす影響を調べた.2つのリザーバ間をナノスリットで接続し,両リザーバ間に濃度の異なるNaCl水溶液を注入して金電極により電位差を計測した結果,数mVの差が計測された.これは,ナノスリットが液中で負に帯電していることにより,陽イオンが選択的に透過したためであると考えられる.しかしながら,定常的に安定した電位差を維持するには至っておらず,次年度には,さらに流路形状に改善を加えて液中の帯電状態を明確なものにする.
一方,液中の局所的な電場計測を実現するため,微小ガラス電極の作製とそれを用いた電気計測を行った.内径約1mmのガラス管を伸長して先端径を1μmとし,そこに寒天を充填した後にKCl溶液とAg/AgCl線を挿入してプローブとした.電圧を印加した流路内部でプローブを走査することにより,液中の電位に勾配が見られることが明らかにされた.これより,直径1μm程度の解像度を持つ局所電場計測用のプローブの作製に成功した.この原理に基づき,次年度には,マイクロ・ナノ流路内部に局所電場計測用プローブを設計・製作する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度に目標としていた,「イオンで流れを創る」ために,マイクロ・ナノ流路における液体の帯電状態を実現することに成功した.一方で,電気流体力学流れの形成には至っておらず,次年度への課題が残された.「イオンで流れを測る」ための微小ガラス電極を作製し,それを用いた局所電場計測に成功したことについては,一定の目標を達成したと言える.
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度(令和元年度)は,ひとつにマイクロ・ナノ流路における電気流体力学に基づく流動制御技術の発展を目標とし,ナノ流路構造とマイクロ流路との最適設計により,電解質溶液の帯電状態の向上を図る.それを用いて,電圧印加による流動制御を実現する.マイクロ・ナノ流路の作製には,LED描画装置および電子線描画装置を用いてμmスケールとnmスケールの流路を多段に組み合わせることにより,多彩な流路構造を実現することが可能である.また,流路中の局所的な電場を計測するためのプローブを微細加工技術により流路内部に一体成形する.原理の検証は前年度に行われているものの,ナノ流路構造を作製することは新しい試みであり,流路作製と微小電流計測の困難が予想されるが,これまでに蓄積してきた知識と経験で克服する.さらに,最終年度には液中のイオン濃度を計測することを応用として提案していることから,微小ガラス電極を用いたイオン濃度の計測についても試みる.はじめに,他者に比べて圧倒的に輸送係数の大きいプロトンの濃度,つまりはpHの局所計測を実現する.
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