本研究では,微視的スケールの流体現象に関する学術の深化と新奇流体計測技術の創出を目的とし,「イオン電流で流れを創り」,「イオン電流で流れを測る」ための原理を確立する.液中のイオン輸送が周囲溶媒の流動を引き起こす電気流体力学流れをはじめとするマイクロ・ナノスケールの微視的な流体現象を具現化し,微小ガラス電極を用いた流体計測法を提案するとともに,不均一イオン電流を利導したμイオンクロマトグラフィの実現と応用を目指す.
これまでに,電解質溶液中の電気的中性が乱れる場に起因して,液中のイオン輸送により引き起こされる電気流体力学流れや電気浸透流が発生することを確かめてきた.そのなかで,局所的なイオン濃度測定技術の開発の必要性が見い出されたことにより,本研究では,微小ガラス電極を作製し,液中のイオン濃度場とその変化を捉えることによる微視的スケールの流動現象の解明を試みた.まず,流路中央部にオリフィスを作製し,イオン電流環境下において,ガラス電極を走査することにより,液中の局所的な電場が明らかになるとともに,電流電圧特性から電解質濃度を10%以下の誤差で測定可能であることを確かめた.検査部の局所電場測定を可能とすることにより,校正を必要としない濃度測定技術が確立された.また,2連管のガラス電極を用いることにより,液中のpH測定を可能とし,pH 1~pH 10の範囲で線形な電流電圧特性を得ることができたことより,プロトンについては広範囲の濃度測定が実現された.
マイクロ・ナノスケールの流路内部にナノオリフィス構造を作り,そこを通過する微粒子のイオン電流応答を調べることにより,現象の詳細と液内部の状態を明らかにした.特に,表面性状の異なるポリスチレン粒子と金粒子が流動によりオリフィスを通過するときのイオン電流応答の差異が明らかにされ,液中の微小な濃度場の差を捉えることに成功した.
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