研究課題/領域番号 |
18H01378
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野崎 智洋 東京工業大学, 工学院, 教授 (90283283)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マイクロナノ熱工学 / 再生可能エネルギー / 太陽電池 / 量子ドット / プラズマ化学 |
研究実績の概要 |
平成30年度はナノ結晶シリコン(SiNC)の成長機構解明を主体に研究を実施した。SiNCの結晶欠陥は,表面に形成されるPbセンターと内部に存在するDセンターに大別できる。表面欠陥はSiNC合成後に表面水素化によってほぼ完全に除去できる。一方,Dセンターはナノ粒子の成長過程で空孔原子などに起因して生成され,SiNC内部に存在するため後処理で除去することが難しい。結晶成長欠陥を極限まで低減するためには,SiNC成長機構の解明が必須であり,本研究では主にプラズマによるナノ粒子の非平衡加熱に着目して研究を実施した。プラズマ特有の反応機構である非平衡加熱を利用し,ナノ粒子の温度をガス温度より数100K高く加熱することで結晶化度を高めた。その結果,SiNCの結晶化が促進され結晶欠陥を低減したSiNCを合成することに成功した。さらに,HFドライエッチングにより表面を終端する塩素(Si-Cl結合)およびシリコン酸化物を取り除くことで,大幅な結晶欠陥の低減に成功した。結晶欠陥はESR(Electron Spin Resonance:電子スピン共鳴)により定量的に分析するとともに,フォトルミネッセンス強度および発光寿命の観点からも評価した。SiNCの光照射により生成した励起子の再結合過程と密接に関連した蛍光を測定し,一般的なポーラスシリコンよりも高い量子効率を得ることを実験で証明した。また,1次元プラグフロー反応モデルを構築し,プラズマ反応場における微粒子成長機構をモデル化した。電力は結晶化度に影響を及ぼし,流量は粒径を左右する。さらに,流量と電力を組合わせた比投入エネルギー(電力/流量:単位ガス分子あたりに与えるエネルギー)でSiNC収量および原料消費率が決まることを明らかにした。その成果に基づき,結晶化度の高いSiNCを高収量で合成するための最適合成条件を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画より大きな進展がえられた。SiNCを光励起し,その時放出される蛍光(フォトルミネッセンス)の量子効率および発光寿命の観点から結晶欠陥を定量的に評価した。その結果,ナノシリコンとして研究例が最も多いポーラスシリコンと比較して極めて高い量子効率を示し,シリコンナノ結晶に関する研究の中では世界トップクラスの62%を示した。このことは,光電変換デバイスの効率向上はもちろん,SiNCを太陽電池以外にも広く適用できる可能性を示唆する結果として重要である。当初の計画以上に研究が進展したため,SiNCの欠陥低減だけでなく,研究計画を前倒しして太陽電池開発についても一部着手した。光電流を高効率に外部回路に取出すためには,バルクヘテロ構造の最適化だけでなく,中間層の形成および最適化も必要となる。正孔に対してはPEDOT:PSSが用いられるが,塗布条件の最適化によりその厚さを50nm以下に制御することに成功した。一方,電子だけを輸送する中間層には適用できる材料が限定されており,一般に,TiO2, ZnO, SnOなどが用いられる。バンド構造から選択肢が少ないうえ,ワイドバンドギャップ半導体は高温での焼成が必要になるため,低温の塗布プロセスで直接的に製膜することが難しい。本研究では,TiO2ナノ粒子の薄膜が電子輸送層として機能することを確認し,その基本特性を明らかにした。光吸収層界面構造を最適化することで,光電変換効率向上を実現するための指針を示した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度の研究では,前年度の研究成果である結晶欠陥を低減したシリコンナノ粒子(SiNC)を用い,半導体高分子とブレンドした有機無機ハイブリッド太陽電池の開発および構造最適化を行う。結晶欠陥を低減させたことによる光電流増大を確認するとともに,光吸収特性および内部量子効率との関係を明らかにし,光電変換効率向上の機構を解明する。SiNCの結晶欠陥低減に関する研究を発展させつつ,SiNCおよび半導体高分子界面領域の構造制御と物性評価を行う。SiNCと半導体高分子の境界には1‐10 nmの空間スケールで特異な界面領域が形成され,バルク高分子と異なる物性が発現する。そのため,光吸収による励起子の生成はもちろん,励起子の拡散と解離,さらにトンネル効果でSiNCをホッピングして輸送される電子や,界面領域を輸送される正孔の移動度に大きな影響をおよぼすため,その機構を明らかにする。ナノ界面領域における高分子物性およびナノ構造依存性を明らかにするために,全反射赤外吸収分光装置によって分子構造変化を定量的に評価する。光吸収を担うバルクヘテロ構造を低温熱処理することで構造緩和する過程を解明し,試行錯誤から脱却した機能材料開発およびデバイス実装研究を推進する。さらに,光電変換効率のデバイス温度依存性を明らかにするとともに,光電変換機能をさらに増強するために必要となる,電子輸送層の材料設計およびデバイスへの組込みを実施する。
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備考 |
大塚宗親:The Best Presentation Award:6th Korea-Japan Joint Symp on Adv Solar Cells/坂田謙太:静電気学会宍戸奨励賞/F B Juangsa:機械学会熱工学部門講演論文表彰,他7件の学生賞受賞。 世田谷区田園調布学園特別講義1回(2018.10.13),オープンキャンパスなど研究室公開5回。
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