研究課題
低温熱処理により欠陥を低減させたシリコンナノ粒子(SiNC)を用い,有機無機ハイブリッド光電変換デバイスのプロトタイプを開発した。SiNCを半導体高分子の薄膜に均一に分散させること,さらにSiNC表面に形成されるダングリングボンドを抑制するために,水素化処理したSiNCの表面状態を全反射赤外吸収分光法により詳細に検討した。熱処理温度を200℃以上に高めるとSiNC表面の水素が脱離し,ESR分析の結果,不対電子に起因する大きなマイクロ波吸収ピークが確認された。バルクシリコンと異なり,SiNCの表面にはSiH,SiH2だけでなくSiH3が生成されやすく,この水素が低温で脱離するために欠陥が生成されることを明らかにした。SiNCと高分子の重量比を1:1程度に制御すれば,SiNCは高分子内にほぼ均一に分散したバルクヘテロ構造を形成することが透過型電子顕微鏡による断面観察から明らかになった。さらに,薄膜を低温熱処理することでチオフェン構造がわずかに変化することが赤外吸収分光で確認された。これは,SiNCと高分子の界面に作用する残留応力が緩和するためと考えられる。このことは,SiNCの再配置または高分子薄膜のひずみ緩和により有機無機材料界面構造が安定化していることを示唆しており,バルクヘテロ構造の最適化において重要な役割を果たしている。その結果,光吸収特性は顕著に変化しないものの,光電変換効率は向上することを確認した。このような構造制御による発電特性の向上は,P3HT,PTB7など数種類の半導体高分子材料に対して同様に確認された。さらに,電子輸送層の多層化も含めて,有機および無機材料で構成されるナノ界面領域を最適化する指針を得た。インフライト・プラズマCVD法で合成したSiNCの優位性と高効率光電変換デバイス実装の道筋を示し,次年度の研究目標である高効率光電変換デバイスの実現性が高まった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の研究計画より大きな進展が得られたため,新たな項目を追加してさらに検討を行った。シリコンナノ粒子(SiNC)と同程度の結晶サイズを有する(10 nm以下)酸化チタン(TiO2)を用いて光電変換デバイスを作成し,無機ナノ粒子と高分子の相溶性がバルクヘテロ構造および有機無機材料界面構造に及ぼす影響を明らかにした。TiO2はバンドギャップが大きいn型半導体として機能するため,光吸収により生成した正孔が集電電極に拡散輸送されることを防ぐ良好な電子輸送層として機能することを明らかにし,高効率光電変換デバイスを実現するうえで重要な材料となりうることを明らかにした。また,SiNCの結晶サイズが光電変換能に及ぼす影響を調べるために,結晶サイズが約1桁大きい平均粒径60-100 nmのシリコンナノ粒子を用いて高分子薄膜への分散性を調べた。一般に100 nmの微粒子は合成しやすく,廉価に販売されており工業上利用価値が高い。しかし,市場で販売されているシリコンナノ粒子は不純物を多く含んでおり,光電変換デバイスに適した半導体物性が得られなかった。また,フッ酸によるドライエッチングや低温熱処理によって結晶欠陥を低減することが極めて困難であった。粒子製造プロセスが不明であるため対応策を得ることも難しい。一般に,大量合成に適した熱分解法などの合成法では,一次粒子の凝集により粒径分布が双峰型(bimodal)になりやすく,光電変換デバイスには適さないことが明らかになった。本研究で構築したインフライト・プラズマCVD法で合成したSiNCの優位性と高効率光電変換デバイス実現への道筋を示すとともに,SiNCと組み合わせる無機材料の選定に成功した。これにより,次年度の研究目標である高効率光電変換デバイスの実現性が高まった。
結晶欠陥を低減させたシリコンナノ粒子(SiNC)を用いて,エネルギー変換効率8%を超える有機無機ハイブリッド光電変換デバイスを開発する。光吸収を担う高分子薄膜にSiNCを均一に分散させるだけでなく,その界面領域における高分子の分子構造制御によりバルクヘテロ構造の最適化を行う。具体的には,1年目,2年目の研究で明らかにしたSiNC表面のSi-Hn結合状態の制御,および低温熱処理による結晶欠陥(ダングリングボンド)を低減させたSiNCを用いて構造制御を実現する。製膜後の構造最適化については,低温熱処理により高分子の内部に発生するひずみを除去し,これを赤外吸収分光法でモニタリングすることで発電性能と分子構造の相関をとる。電子・正孔の再結合を抑制するために必要な電子輸送中間層については,SiNCを用いた傾斜製膜によるものと,TiO2を中心にワイドバンドギャップ半導体ナノ粒子を常温コーティングにより薄膜化したものを適用する。デバイスの性能は模擬太陽光(約100,000 lx)と模擬室内光(約1,000 lx)によって評価する。光量が少ない室内光にたいしては,有機系材料を利用する薄膜太陽電池では高い発電特性を示すため有利である。さらに,SiNCは450nm以下の波長で高い光吸収能を有するため,一般的な有機薄膜太陽電池より高い発電効率を獲得できる可能性がある。室内光源の波長に適した半導体高分子材料を選定することに加え,SiNCにより450nmより短波長の光量子吸収を利用して光キャリア生成による高い発電効率を示すデバイスを実現する。デバイスアーキテクチャーの最適化は,中国南開大学の研究グループと共同で実施し,国際共著論文として研究成果をまとめる。微弱な室内光に対してもIoTデバイスの電源として利用できる有機無機ハイブリッド光電変換デバイス実現に向けた道筋を明らかにする。
Z Sheng:7th East Asia Joint Symp Plasma and Electrostatic Technol Environ Appl:Best Oral Presentation Award (2019.11)/Z Sheng:Best Presentation Award:13th Korea-China-Japan Student Symposium (2019.5)
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 5件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 17件、 招待講演 7件) 図書 (2件) 備考 (2件)
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