研究課題/領域番号 |
18H01388
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田口 良広 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (30433741)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光電子ピンセット / 拡散係数 / センシングチップ |
研究実績の概要 |
光電子ピンセット用の光導電膜成膜方法はプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法が従来用いられてきた。しかしながら、光学素子や貫通穴が一体成型された異形基板や耐熱温度が低いプラスチック基板にはCVD法を適用することが原理的に不可能である。本研究では、光干渉用のレンズや電極用貫通穴などの各種コンポーネントを一体成型したプラスチック基板に、誘電泳動が誘起可能な光導電膜(水素化アモルファスシリコン)をスパッタ成膜する技術を確立することを目的としている。本提案手法は、複雑なフォトリソグラフィ工程やドライ・ウェットエッチング工程を経ないため、CVD法によるデバイス作製プロセス数と比較して格段に少ないプロセス数(1/10程度削減)でセンシングチップを作製可能である。光照射部の導電率が変化する光導電膜は誘電泳動を誘起するために必要不可欠なコンポーネントであり、成膜温度や水素流量等をコントロールし、明暗導電率比がプラスチック基板を用いた場合に高いコントラストを示すファブリケーションレシピを構築する必要がある。本年度は、各種条件における光導電率を分析するとともに、光学特性(屈折率や消衰係数の波長依存性)や結晶構造を分析し、センシングチップに適用可能な成膜条件を多角的に検討した。次に、得られた光導電率ならびに光学特性を用いてシミュレーションを実施し、最適な膜構造を決定した。プラスチック基板に関しては、励起波長および観察波長領域において高い透過率を示し、且つ比較的高い耐熱温度を示す材料を探索し決定した。また、射出成型によって形成したプラスチック基板に対してスパッタ成膜を行い、作製したデバイスの光電子ピンセットへの適用性をポリスチレンビーズを用いて検証し、その有用性を明らかにすることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、当初計画していた研究実施項目に関して、全て達成することができた。プラスチック基板に対して、水素化アモルファスシリコンをスパッタ成膜するプロセスパラメータを決定することができ、光電子ピンセットに十分適用可能な光導電膜を形成することに成功した。また、センシングチップに必要な励起条件を明らかにし、提案手法の妥当性を世界に先駆け明らかにすることに成功した。さらに、選択的に水素化アモルファスシリコンの部分成膜を達成しており、提案手法の優位性を実験的に示すことに成功している。以上のことから、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、夾雑物が存在する実在系への適用を目指し、高速な拡散係数センシングを実現するために、前年度までに開発した光電子ピンセット技術を用いたフィルタリング・濃縮技術の開発を目指す。また、センシング手法に関しても感度・分解能を向上させる。さらに極微量分析を実現するために、提案技術を用いた濃縮技術について開発し、デバイス上へ集積化させる。
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