研究課題/領域番号 |
18H01393
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
舩戸 徹郎 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (40512869)
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研究分担者 |
柳原 大 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (90252725)
青井 伸也 京都大学, 工学研究科, 講師 (60432366)
藤木 聡一朗 獨協医科大学, 医学部, 助教 (90770173)
四津 有人 茨城県立医療大学, 保健医療学部, 准教授 (30647368)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 姿勢制御 / 予期的姿勢調節 / 小脳 / モデル予測制御 / 学習 |
研究実績の概要 |
小脳における障害は姿勢維持機能の低下を生じることから、小脳における姿勢維持機能の低下と回復のメカニズムを明らかにすることが、効果的なリハビリテーションへとつながる。斜面におけるヒトの直立動作の応答から、ヒトが床状態に応じて予測的、学習的に姿勢を変化することが示唆されており、小脳が姿勢におけるこの予測及び学習に貢献していると考えられる。そこで本研究では、小脳障害動物とヒトの実験、及び力学モデルを基に、姿勢制御に関わる予測と学習制御メカニズムの解明を目指して研究を行ってきた。本年度は(1)予測可能な外乱環境下でのラットの姿勢学習の評価、(2)小脳局所除去ラットの外乱に対する姿勢応答の計測と評価、(3)小脳疾患患者の傾斜床に対する姿勢動作の計測を行い、以下の研究結果を得た。 (1)ラットを2足直立の状態で保ち、ランプによる合図の後、一定時間後にラットが乗る床が傾斜する実験装置を用いて、外乱の予測ができる状況下でのラットの姿勢応答実験を行った。その結果、健常ラットでは、20回程度の外乱試行を経験することで、ランプによる合図と外乱の関係を学習し、外乱に対して姿勢を保てるようになった。さらに、学習過程を詳しく解析すると、合図の直後に外乱に備えるように(外乱時の姿勢を予測して)直立姿勢が変化していることが分かった。(2)学習が完了したラットに対して、小脳虫部の局所除去を行うと、外乱に対して姿勢維持が困難になった。障害ラットの動作を健常ラットの動作と比較すると、学習前と同様の動作に戻っている様子が分かった。(3)脊髄小脳変性症患者に傾斜角度がゆっくりと変化する床上で直立して頂き、傾斜に対する姿勢の応答を調べた。その結果、健常被験者では、傾斜後に徐々に姿勢が垂直に戻るのに対して、脊髄小脳変性症患者では、垂直に戻る動作が低下する様子が計測結果に見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究として、〇ラットの姿勢において、ランプによって合図を行うことで、外力の影響を排除した実験環境を構築すること、〇同実験環境で小脳障害ラットの運動を計測し、障害に伴う姿勢機能の変化を調べること、〇力学モデルを用いて計測結果を基に予測機能を調べること、〇ヒトの直立姿勢制御の力学モデルを構築し、ゆっくりとした姿勢に対する応答評価ができるようにすること、を目標としていた。これらの研究はそれぞれ以下のように進捗している。 〇ラットの実験系を計画通り構築し、外力の影響が少ない実験系で予測を伴う姿勢動作が評価できるようになった。また、この実験系で評価することで、合図とともに外乱に備える動作が生成されるという学習過程が示せるようになった。このように、実験環境の改善とそれによる予測動作の計測ができたことから、順調に進展していると言える。 〇小脳虫部に対する局所除去を行ったラットに対して、構築した外乱実験系で運動を計測することに成功し、さらに、障害ラットが学習前と同様の動作を示す様子が計測できた。従って、順調に進展していると言える。 〇ラットの姿勢制御の変化として現れた学習過程の変化を、力学モデルを用いて評価するために、強化学習を用いた力学モデルの構築を行っている。これまで構築してきた予測モデルと学習モデルをあわせて予測・学習の双方が評価できる準備が整いつつあり、おおむね順調に進展していると言える。 〇脊髄小脳変性症患者の外乱に対する応答を調べることで、ゆっくりとした姿勢の応答が小脳疾患患者では低下することを示した。さらに、小脳疾患患者の制御系の変化を評価するために、現在筋骨格シミュレーションソフトOpenSimを用いて筋骨格モデルを構築し、トルクの変化を調べている。小脳の影響による姿勢動作の変化とモデルを用いた評価法の構築が順調に進んでいることから、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度までに、予測可能な姿勢外乱に対するラットの予測動作の学習と小脳障害による変化、ヒトにおいて小脳疾患の影響による姿勢の変化が計測できるようになり、また力学モデルの構築によって、ラット・ヒト双方の制御メカニズムに迫れるようになった。今後、構築した実験系を基に、姿勢における予測と学習の原理へのアプローチを行う。(1)ラットの予期的姿勢調節の実験、(2)システムモデル(3)ヒトの姿勢傾斜実験において、それぞれ以下の方策をとる。 (1)ラットの実験では、予測を伴う運動制御の学習原理に迫る。外乱に対する学習過程での動作を計測し、学習過程においてどのような制御指標を基に運動が変化するかをUCM(Uncontrolled Manifold)解析を用いた制御目標の導出等を通して調べる。学習に伴う制御目標の変化、及び小脳障害に伴う制御目標の変化を調べることによって、予期的動作の獲得過程に迫る。 (2)システムモデルの解析では、ラットの姿勢実験で見られた予期的動作の学習を、機械学習を用いてモデル化し、学習原理に迫る。これまで構築してきた姿勢制御モデルに対して、強化学習を導入することで、外部情報を基にした姿勢制御系の獲得過程のモデル化を行う。構築した姿勢制御の学習モデルの挙動と、実験で得られたラットの姿勢制御の学習過程を比較することで、どのような運動学習原理によってラットが外乱に対する予測的姿勢制御を獲得していくかを明らかにする。 (3)ヒトの姿勢傾斜実験では、直立時のヒト及び傾斜床の力学モデルを筋骨格シミュレーションソフト上で構築し、脊髄小脳変性症患者の傾斜に対する応答をモデルに基づいて評価する。逆動力学解析によって健常者に対する制御トルクの変化を解析することで、小脳の疾患に伴う制御系の変化を定量的に明らかにする。
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