本研究課題では,これまで確立してきた2次元的な血管網の誘導技術を3次元に発展させるとともに,従来技術では実現が困難であった血管網の局所的な力学刺激応答試験に応用することを目的としている.本年度は,新型コロナウイルスや鳥インフルエンザの影響により,大幅に実験計画の遅れがあったものの,以下のような成果が得られた.
・能動的に吸引する方法の検討:これまでは,3次元的誘導用のチューブを取り付けた人工殻に受動的な誘導を行う際,成功率が向上しない問題があった.そこで,本年度は外部に圧力チャンバーやパッチを取り付けて能動的に吸引する方法についても検討した.結果として,吸引するタイミングが非常に難しく,また,吸引できたとしても血管がダメージを受けて胚が長く生存できないこと等が確認できた. ・人工殻作成方法の改善:以上の問題点を踏まえ,従来の受動的な方法において人工殻に付加する構造体を組み立てる際の工程を大幅に見直すことにした.具体的には,PDMS膜同士を接合する順番や,PDMSチューブを膜に取り付ける工程を様々に入れ替えて条件出しを行った.加えて,専用器具を開発し,3次元構造体の取り付け精度向上や個体間のバラツキ低減を図った.結果として,70%以上の成功率で3次元的な血管誘導を行えるようになり,誘導長も最大で45mm程度と従来より大幅な性能向上を達成した. ・誘導した血管の観察:3次元的に誘導した血管について,本研究課題で開発したタイムラプス観察システムを用いて,血管誘導までの数日間の様子を連続的に撮影した.結果として,血管が人工殻内に侵入する際の様子を捉えることに成功し,上記の組み立て方法改善の効果も確認できた.さらに,誘導後の血管に対して,顕微鏡下で高倍率観察を行い,力学的な刺激(例えば引っ張り)を行いながら,従来よりも鮮明に個々の赤血球の流れを捉えることが可能であることを明らかにした.
|