没入型バーチャルリアリティシステムで必要となる全身触覚ディスプレイの発展のために,接触により身体に発生する弾性波の空間的広がりの再現により,臨場感を向上させるという新しいパラダイムを提案した.このような分布的な振動情報を理解するために,従来考慮されてこなかった高周波振動の身体上の伝播特性を解明し,振動刺激により任意の伝播特性を再現することを目的とする. (1)身体上に伝播する任意振動波形のファントムセンセーションの定位 身体に生じる振動伝播を質点の振動系で簡易的に表現し,剛性,粘性を変化させたときの振動を複数の振動子で再現することで,身体の剛性感,粘性感が変化するかを検証し,身体材質感として知覚されうることを確認した.また.身体上の強度差によって生じるファントムセンセーション(PS)を,任意の振動波形で制御する方法として,(2)で考案した知覚インテンシティに基づく振動強度で配分した結果,任意の振動波形に対してPSを定位させることに成功した.このPSの制御によりVRシステムなどで,身体からエネルギ体を放出するなど新しい体感表現が可能となった. (2)心理評価と知覚モデリング:ヒトの高周波振動受容特性について,100 Hz以上の高周波振動が知覚インテンシティと,数十Hzで起こる知覚インテンシティの変動成分の2つの特徴により知覚されることを心理物理実験により確認した.特に,知覚インテンシティの変動は,80-125Hz以上になると変動成分を区別できなくなり,60 Hz以下の変動成分に対しては明確に弁別できることを明らかにした.これらの知覚特性に基づき,高周波振動によって生じる振動感覚を維持しながら,より低周波の振幅変調波に変換する方法を考案した.この手法により,周波数応答に制限のある振動子でも,聴覚域を含む高周波振動の体感をリアルに体験できることを確認した.
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