研究課題/領域番号 |
18H01402
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
峯田 貴 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (50374814)
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研究分担者 |
野々村 美宗 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (50451662)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 触覚ディスプレイ / 装着型 / 形状記憶合金 / 厚膜形成 / MEMS |
研究実績の概要 |
臨場感ある触覚情報提示のための高出力SMA厚膜アクチュエータ型触覚ディスプレイ素子開発に向け、以下の研究に取り組んだ。 TiNiCuフラッシュ蒸着積層膜の低温相における剛性の抑制による出力増大を目指し、各層の超薄膜化(~2nm)による膜中へのCu取り込みを図り、またTiNiCo系SMAの成膜についても検討した。いずれも狙った組成での成膜が可能になったが、形状回復が不十分で合金化の促進が課題であることがわかった。また、安定した厚膜積層のためにフラッシュ蒸着の既存装置へ電子線加熱蒸着機構を導入した。 腕部装着型を想定し、振動ピン間ピッチを2 mmとして数10μmの振幅と10mN以上の発生力を目指して平ばね形状のSMAアクチュエータとバイアスばね機構の力学設計を最適化した。作製したプロトタイプの動作評価の結果、アクチュエータ内での温度分布が大きいために出力が制限されることが判明し、可動部と配線形状を改良して熱伝導抑制を図った素子を再試作した。良好な静的な出力が得られたが、触覚受容器が高感度を有する15 Hz以上の周波数域では熱応答が遅いために出力低下が生じ、通電条件による改善効果の検証と熱的な設計を適正化が課題であることがわかった。 フレキシブル配線シート等へのアレイ状のSMA素子の高密度実装に向け、Cuダミー基板上に形成したSMA素子を、基板貫通配線(TSV)を設けたSi基板上へ接合する手法を考案した。Si基板のTSVを試作し、導電樹脂および保護用の樹脂パターンのマスク塗布条件を確立した。 微細凹凸およびストライプ上のパターンを微細加工したSi基板表面を用い、手指で触れた際の粗さ感と抵抗感に与える官能評価を実施した。皮膚が入り込まないとされる20μm程度の溝幅でも粗さ感への効果があり、また、抵抗感は溝数ではなく接触面積の効果が大きいことを定量的に評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の過程で、ジグザグパターンの平ばね形状のSMAアクチュエータを大面積化したことによって、熱伝導の影響も考慮して加熱時の面内の温度分布の均一化を図る必要があることが判明し、素子の再設計と再試作を実施した。以上の検討に時間を要し、SMAアクチュエータの良好な形成は実現したが、皮膚の触覚受容器に適した15Hz以上の動作周波数におけるパルス通電による過熱時とOFF期の冷却時の応答向上に向けた駆動条件を詳細に検証するには至っていない。また、基板貫通配線形成と基板接合の要素技術を確立したが、接合プロセスの歩留まり等を含めた評価は次年度への課題となった。並行して進めたTiNi系SMAの厚膜形成については、組成制御の目途を得ることができたが、形状回復特性が不十分であり、成膜時の加熱温度や熱処理の条件の適正化を図り合金化をさらに促進する検討が必要があることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
触覚ディスプレイ用SMA厚膜マイクロアクチュエータ高出力化に向け、SMA厚膜の特性については、フラッシュ蒸着で形成するSMA膜の低温相での柔軟性向上によるアクチュエータとしての出力増大を目指し、既存SMAフラッシュ蒸着装置の高真空化による高品質化を図るとともに、前年度に導入した電子線加熱機構を用いたSMA厚膜の組成の精密制御を図り、組成均一化による柔軟性向上への効果を評価する。また、熱処理による合金化の促進と結晶粒成長抑制も考慮した柔軟性向上への効果を検証する。 前年度に明らかになった拡大ピッチアレイ型SMAアクチュエータ素子の熱応答の改善に向け、通電加熱時のアクチュエータ可動部パターン内の熱的設計をさらに適正化し、皮膚が高感度に刺激感知感知する15-30 Hzの動作周波数域における発生力および振幅の応答性向上への効果を評価する。また、前年度に引き続き不連続振動を利用したインパクト増強効果およびピンのせん断動作による刺激拡大への効果の可能性を検証する。 SMA厚膜アクチュエータ素子の実装法開発については、要素技術を確立した基板貫通配線(TSV)形成と導電性基板接合プロセスを適用し、SMA厚膜アクチュエータアレイ型触覚ディスプレイ素子を高密度実装する手法を構築してフレキシブル配線シートへ実装した大面積タイプの試作に取り組む。また、基板内へ半導体素子を作り込んでアレイ状の各SMAアクチュエータへの共通配線からの選択的な通電過熱による駆動手法を構築する。 提示触感のパターン依存性評価について、既存の指モデル型力覚センサシステムでの計測実験および触感官能評価試験により、Si基板表面の微細加工した凹凸パターンや異なる材料表面による微小振動パターンと触感との相関を把握し、触覚提示を人工的に再現していくための指針を得る。
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