本研究課題は空中超音波を適切な対象表面に照射し触察したときに,その対象表面の摩擦感が低下して感じられるという現象についての研究である.これまでに,発泡スチロール表面において摩擦低下が強く感じられることを確認し,プロジェクションマッピングと組み合わせることで新しいインタフェースを実現してきた. 本年度実現したことは主に2つある.1つは適切な共振構造を利用し,発泡スチロール以外の表面においても十分な摩擦低減を実現できると確認したことである.薄いフィルムを膜状に張り,その下部の空気バネと膜の質量とで形成されるバネ-マス系の共振周波数を超音波の周波数と一致するように設計すると,そのフィルム上で摩擦が大きく低減させられることを確認した.発泡スチロールという特定の材質に限定されていた現象に対して,適切な共振構造を持ったものであればその対象を拡張できるという可能性を示したものである.また,膜は透明なため,このような摩擦変化が生じている際の指腹の変形を,直接下から観察できるという特徴もあり,今後の触覚研究に有用であると考えている. 2つめは2次元的な表面に限定されていたインタラクションを,3次元に拡張したことである.これまでは2次元面内の指先位置を計測し,その位置に対して超音波を照射して摩擦を制御していたが,3次元化する際には対象表面と指先位置のどちらも3次元的に計測する必要がある.センサを深度センサに変更し,指先位置をカラートラッキングすることで,四角錐,あるいは一次元的に正弦波状の変形をした発泡スチロール表面で摩擦を変化させられることを確認した. これらの成果は,それぞれ国際会議にて発表することが決定しており,特に前者については触覚研究のトップカンファレンスであるTransaction on Hapticsに採択された.
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