本研究課題においては、in vitroの培養環境を微細加工を始めとする工学技術で制御した状態で長期に渡り細胞動態のデータを取得し、数理モデルに還元することで多細胞集団が特定パターンを形成する過程で場に働くダイナミクスの解析を目的としている。 当該年度は気管支上皮細胞と細胞を取り囲む細胞外マトリックスとの相互作用が細胞行動に及ぼす影響について解析を行った。細胞はECMから抵抗を受けて動きを制限されてい状態から、ECMを自らリモデリングして抵抗を少なくしていることを光ピンセットを用いて明らかにした。さらに昨年度まで同様、細胞をディッシュ上に微細加工でパターニングを行い、細胞行動の再現性を高めた実験系において、細胞がECM内にトンネルを自ら作り出し、他の細胞も通りやすい道を作っていることを三次元イメージングにより明らかにした。また、細胞は自らフィブロネクチンを生成して、自らが通ったパスにマーキングを行い、フィブロネクチンが存在している場を積極的に移動することを確認した。 上記実験結果から、細胞はECMの分解と再構築を自ら行いながら、自身が存在しやすい場を積極的に作りだしており、このECMリモデリングが移動方向に大きく寄与していることを明らかにした。さらに、人為的にこのECMの場を制御することにより、細胞の移動方向を誘導することができること示した。細胞を取り囲むマトリゲルの一部に他の部位よりも柔らかい状態を作り出すことにより、細胞は積極的に柔らかい方へと移動し集団パータン形成の制御が出きた。このことは今後、複雑組織の形成をin vitroで達成する上でECMの場の制御を積極的に行うことが重要であることを示した。 さらに本研究課題遂行の過程で、三次元培養におけるECMの局在を制御する新手法の開発に成功した。
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