研究課題/領域番号 |
18H01415
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
青柳 誠司 関西大学, システム理工学部, 教授 (30202493)
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研究分担者 |
長嶋 利夫 上智大学, 理工学部, 教授 (10338436)
高橋 智一 関西大学, システム理工学部, 准教授 (20581648)
福永 健治 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (30278634)
鈴木 昌人 関西大学, システム理工学部, 准教授 (70467786)
歌 大介 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 助教 (70598416)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マイクロナノデバイス / 生体模倣 / 精密部品加工 / FEMシミュレーション / 医療・福祉 |
研究実績の概要 |
本課題では,蚊の針の細さの摸倣のみならず,動物の皮膚への穿刺行動,毛細血管・細静脈からの吸血行動を詳細に観察し,その機能を工学的に摸倣して新規な穿刺・採血メカニズムを提案・開発することを目標とする.本年度の研究実績の概要を以下に示す. 蚊が針を皮膚に穿刺する様子,および針を血管にアクセスさせて血液を吸引する様子を動物の皮膚を用いて観察した.蚊の吸血行動が,角質層を穿孔する,表皮・真皮を進行する,血管を穿孔し血液を吸引する,の3フェーズから成っていることを解明した.非線形有限要素法によるシミュレーションにより,上記3フェーズの穿刺方法の有効性を理論的に検証した. 蚊の下唇を摸倣した穿刺冶具を開発した.蚊は下唇が口針を包んで支えることでその座屈を防止し,さらに下唇が皮膚の撓み(窪み)を防止していると考えられる.昨年度から改良を重ね,真空吸引を応用して皮膚を撓ませない冶具を3Dプリンタにより開発した.中空微細針を往復回転させながら採血を行う携帯型デバイスの開発に取り組んだ.卓上に設置して人間の腕に穿刺ができるまでのシステムの小型化に成功した. 蚊はランダムに血管を探索しているが,研究室で培った血管可視化技術を活用し,血管を狙って穿刺する手法の確立を目指す.本年度は,消毒液を乱反射防止用の皮膚コーティングとして用い,強力LED照明と画像フィルタリング処理により,皮膚表面下の毛細血管・細静脈を検出することに成功した. 実際に人間の皮膚での痛みの評価を,本課題の連携研究者である高澤知規医師の指導のもと,群馬ペインクリニック病院において同病院の倫理委員会を通して行った.医師が通常の速度で針を皮膚に穿刺・抜針することに対して,被験者の主観的な評価により1/10の痛みの緩和を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1) 蚊の穿刺動作の観察とシミュレーションによる穿刺メカニズムの解明:新たに顕微鏡の鏡筒を剛性のある支持台で固定し,多方向から高倍率で蚊の動物皮膚への穿刺を拡大観察するシステムを構築した.観察技術が進歩し,蚊の吸血行動が,角質層を穿孔する,表皮・真皮を進行する,血管を穿孔し血液を吸引する,の3フェーズから成っていることを解明した.特に,血管を針の振動で突いて穿孔しこれを突破口として血管内に口針を挿入しているという重要な知見が得られた.非線形有限要素法のソルバーとしてLS-DYNAを用い,針が皮膚に陥入していく様子のシミュレーション解析を行った.これより上記3フェーズの穿刺方法の有効性を理論的に検証することに成功した. 2) 皮膚の撓み防止冶具の開発と携帯型穿刺デバイスの開発および血管可視化:真空吸引を応用して皮膚を撓ませない冶具を,3Dプリンタにより開発し,皮膚の撓み防止に成功した.電動スライダ,回転モータ,真空吸引装置等を組み合わせ,卓上に設置して人間の腕に穿刺ができるまでの穿刺システムの小型化に成功した.これにより,さらなる小型化・携帯化に向けた課題が明確にされ,開発の指針が示された.消毒液を乱反射防止用の皮膚コーティングとして用いるアイデアを創出し,皮膚表面下の毛細血管・細静脈を検出することに成功した. 3) 動物による痛みの評価:痛みを伝達する神経細胞の活動電位を計測することで,動物が感じる痛みの程度を確認できる.この手法により富山大学において,蚊の唾液が針穿刺時の痛みを軽減していることが確認できた.人間の代替として動物を用いて痛みを評価できる可能性が示せた. 4)人間による痛みの評価:倫理委員会を通して,痛みの評価実験を行った.通常の速度で針を穿刺・抜針することに対して,被験者の主観的な評価により1/10の痛みの緩和を確認した.
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今後の研究の推進方策 |
1) 蚊の穿刺行動の観察と穿刺メカニズムの解明:本年度に引き続き,動物皮膚を用いた蚊の穿刺行動の詳細な観察を行う.特に血管壁を穿孔する蚊の穿刺メカニズムの解明につながる映像を撮影することを目指す.工具の錐(キリ)のように針を往復回転運動させて穿刺する方法の有効性,皮膚を固定してその撓みを防止することの有効性を,非線形有限要素法(FEM)シミュレーションにより理論的に検証した.今後さらに血管を針の振動で突いて穿孔しこれを突破口として血管内に口針を挿入することの有効性をFEMで確認する.これにより,皮膚の穿刺,表皮・真皮内の進行,血管の穿刺の3フェーズから成る蚊の穿刺動作の総合的なFEM解析を最終年度に完成させる. 2) 下唇を摸倣した穿刺冶具の開発,ポリ乳酸(Polylactic acid: PLA)製の中空細径針の開発,携帯型穿刺デバイスの開発:透明なアクリル板を穿刺冶具に組み込むことで,針が皮膚に穿刺する部分を可視化する.これにより血管を可視化して,それを狙って穿刺することが可能になる.携帯型穿刺デバイスの開発と,人間へ針を穿刺しての痛みの評価を,本年度より本格的に推進している.これに伴い,針を安全な生分解性プラスチックであるPLAで作製することを試みる.微細成形技術により蚊になるべく近い外径100 マイクロメートル以下の中空針を開発する.モータ,電動スライダ等に小型化,低コスト化の余地がある.これを改善することで携帯型デバイスを完成させる. 3) 皮膚内Z方向の位置検出もできるステレオ血管可視化システムの開発:カメラを追加して2台とし,ステレオビジョンにより血管の深さ方向の位置も検出できるシステムの開発を行う. 4) 痛みの客観的な評価:次年度は最終年度であるので,被験者を多数募り,さらなる痛み低減の確認を行う.
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