研究課題/領域番号 |
18H01429
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山形 幸彦 九州大学, 総合理工学研究院, 准教授 (70239862)
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研究分担者 |
眞鍋 由雄 津山工業高等専門学校, 総合理工学科, 特命教授 (30779898)
嶋田 賢男 津山工業高等専門学校, 総合理工学科, 講師 (10628845)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | パルスレーザー / ラマン散乱 / GaN / LEDモジュール / ジャンクション温度 / 歪み / 2次元計測 |
研究実績の概要 |
本研究は,パルスレーザーラマン散乱法による温度/歪みの2次元計測システムを構築し,動作中の各種窒化物半導体照明/パワーデバイスの実計測とシミュレーション結果との比較検討により,キーパラメータ抽出による放熱設計指針を確立する事を目指している.本年度は主に,微弱ラマン光の高感度,高波長分解計測システムの設計と構築,スペクトルフィッティングによる波長決定精度の向上を行い,構築したシステムによる青色LEDモジュールのチップ温度計測結果と熱電対法の結果とを比較検討した.具体的には,Nd:YAGレーザーを用い,高反射率・高波長分散回折格子の加分散ダブル配置,大口径アクロマートレンズや高感度,小ピクセルサイズICCDカメラの導入等により高感度化と高精度化を同時に達成する分光システムを構築し,青色LEDチップの温度測定精度を±4℃に向上させた.構築したシステムは,パルスレーザー,及びダイクロイックミラー,エッジフィルターの長波長タイプ(例えば,632.8nm)への変更で白色LEDに適用できるようにした.また,実際の照明用青色LEDモジュール(チップ数425個)に適用してチップ温度を計測し,熱電対法で得られたモジュール基板温度から,従来は測定が困難であった熱抵抗値の実測に成功した.さらに,熱抵抗値の入力電力依存性など照明用LEDモジュールの熱特性の一部を実験的に明らかにした.また,一般的に用いられるVf(順方向電圧)法での,複数チップの平均的温度しか計測できない欠点を克服するため,既存市販品のLEDを利用して,チップ毎に高精度で温度測定が可能なサンプルを作製した.温度測定用サンプルを用いた実験により,1個のチップのVf値変化がサンプル全体のVf値に影響を与えていることが明らかとなり,パルスレーザーラマン散乱法によるチップ毎の温度測定の重要性が改めて示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は,窒化物半導体照明/パワーデバイスの温度/歪みの2次元計測のためのパルスレーザーラマン散乱法の確立,動作中デバイスでの本手法,他法による同時計測及びシミュレーション結果との比較検討による放熱設計指針(キーパラメータ抽出)の提示であり,本年度は,主に計測システムの高精度化と青色LEDの温度計測,及び白色LED用蛍光樹脂の特性評価と温度計測システムの検討を行った.前者に関しては,Nd:YAGレーザーを用い,高感度・高波長分解能分光システムの設計・製作と,理論スペクトルフィッティングの波長決定精度の向上により,青色LEDチップの温度測定精度±4℃を達成した.構築したシステムにより,実際の照明用LEDモジュールでの熱抵抗値の実測や,熱特性の一部解明などが成果として得られ,本研究課題を遂行していく上で重要な課題を克服したと言える.また,複数チップの平均的温度しか計測できないVf法の欠点を避けるため,既存市販品のLEDを利用して,チップ毎に高精度で温度測定が可能なサンプルを設計・製作した.作製したサンプルでのVf法による温度計測では,1チップの測定値変化がサンプル全体に影響を与えている事を明らかにするなどの成果も得られ,パルスレーザーラマン散乱法と他法による温度計測結果を直接比較検討できる環境を構築できた.後者に関しては,構築したシステムは,パルスレーザー,及びダイクロイックミラー,エッジフィルターの長波長タイプ(例えば,632.8nm)への変更で白色LEDに適用できるようにした.また,熱流体シミュレーションにより,白色LEDのCOBモジュールではパルスレーザー照射による蛍光樹脂,及びチップの加熱効果が小さい(1℃以下)事を示した.これらの結果から,本研究の最終目標を達成する上で,ほぼ当初計画通りに研究が進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果により,構築した分光システムを用いたパルスレーザーラマン散乱法は青色LEDで±4℃の温度測定精度を有しており,複数の光学素子の簡便な置換で白色LEDにも適用可能となることが示された.また,Vf法および熱電対法による高精度な温度同時計測が可能なLEDモジュールも設計・製作が完了した.これらにより,複数の方法による温度同時計測,及びシミュレーションによる熱特性評価が行える環境となったため,今後は,先ず複数手法による青色LEDモジュールでのチップ温度の面内2次元計測を行う.青色LEDでの計測を通じて,照明用LEDモジュールの光学・熱シミュレーションの精度向上に資する有用なデータを供給する.また,白色LEDの動作時の蛍光発光損失,蛍光樹脂での戻り光による遮熱効果,動作条件の変化による発光効率変化や波長変換効率変化などを定量的に評価し,LEDモジュール最適動作のためのキーパラメータ抽出と設計指針を提示する. 一方で,深さ方向の2次元温度分布計測を行うには測定精度が不充分であるため,引き続きシステムの高精度化を試みる.その一方で,温度傾斜をつけた基板での1次元温度分布計測,スペクトルの逆問題解析による1次元温度分布の推定を行い,スペクトル分離による温度分布計測の可能性を調査する.これらを通じて,深さ方向の2次元分布計測の可能性を探る.
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