研究課題/領域番号 |
18H01444
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
藤井 智史 琉球大学, 工学部, 教授 (30359004)
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研究分担者 |
山田 寛喜 新潟大学, 自然科学系, 教授 (20251788)
宇野 亨 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80176718)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 海洋レーダ / 多偏波利用 |
研究実績の概要 |
海上での電波伝搬ならびに海面散乱について、波浪による電磁波散乱を厳密に数値計算する手法の開発にあたった。海の電気的性質はほぼ分かっているので、波浪のモデルが決まれば従来の電磁界シミュレーション法によって数値計算は基本的に可能である。しかし、数km遠方の波浪での散乱を計算するためにそのまま計算すると、メモリ容量が不足し計算不可能である。そこで、解析領域をアンテナ部分と波浪の部分の2つに分け、その領域表面上の等価電磁流をFDTD(Finite Difference Time Domain)法によって厳密に数値計算した後、時間ステップごとにそれぞれの領域を電磁界の等価定理によって結合させる複数領域FDTD法を開発した。さらに、波浪の速度が光速に比べて極めて遅いことを考慮し、時間ステップごとに計算するのではなく、送信パルスの継続時間内ごとに電磁界を接続することによって計算時間の短縮を図ったアルゴリズムを開発した。 プロトタイプレーダの開発では、まず、送受信部の主要部分をFPGA上に実装するための送信波形生成法と受信フィルタ各段でのデシメーション比などを検討し、論理合成を行った。受信用ローノイズプリアンプと送受切替スイッチの回路を設計し製作した。また、無線局免許に合致するように、送信パワーアンプとフィルタを検討し製作した。アンテナにはクロス八木アンテナを素子アンテナに用いることで、水平・垂直二偏波の送受信を可能とし、製作後、新潟大学工学部屋上に設営した。これらの設備で、年内に無線局免許が取得した。 動作検証を行い,垂直および水平偏波ともに正常に動作することを確認した。また、レンジ-ドップラ解析において、垂直偏波では海面波浪の位相速度に相当するドップラが検出され、また水平偏波においては波浪での散乱の応答がほぼ見られないことを確認した。これは海面での電磁波散乱理論に適合する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海上における電磁波散乱に関して、実際のレーダの配置と電波照射領域との距離等の配置関係を考慮しつつ、実際の波浪位相速度と光速との関係から、数値計算を計算機能力や計算コストに配慮した実用的なアルゴリズムが開発できた。 本来一年程度を要する実験試験局免許の取得に対して、総務省信越総合通信局と年度当初より協議を開始し、周波数や出力電力などの送受信パラメータの調整を通して、送受信機ならびにアンテナ等の設計にフィードバックし、スプリアス基準を満たして無線局検査に合格できるように実装および製作作業を行ってきた。その結果、計画通り年内での免許取得ができた。 年度内にプロトタイプレーダの動作検証を行い、垂直偏波、水平偏波とも正常に動作することが確認できた。また、初期解析を行い、垂直偏波では海面波浪の位相速度に起因するドップラ―スペクトル形状を得ることができ、水平偏波ではほぼ海面散乱の応答が見られないという海面での電磁波散乱現象の知見と一致することが認められた。 以上のことから、本年度分にかかる研究の進捗はおおむね計画通りに進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、プロトタイプレーダを用いて、水平偏波および垂直偏波の両偏波について海面散乱や海上を航行する船舶および航空機などでの散乱信号を取得するための観測実験を実施する。観測実験で得られる受信信号から、それらの散乱体での電磁波散乱モデルの検討を行い、電磁界シミュレーションのブラッシュアップをはかる。その計算結果を、FPGA内での信号波形生成や受信部フィルタ等のパラメータ修正に反映する。同時に、受信信号から船舶や航空機などの散乱信号の分離・同定するための信号処理アルゴリズムを構築し、その検証と改良を実施する。 それらを通して、短波帯周波数を用いた海洋レーダの高度利用(マルチユース化)技術の形成に必要となる送受信パラメータ、アンテナ方式、信号処理手法等を検討する。
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