研究課題/領域番号 |
18H01460
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石井 秀明 東京工業大学, 情報理工学院, 教授 (50376612)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 制御システム / サイバーセキュリティ / 分散アルゴリズム / マルチエージェント系 / 合意問題 |
研究実績の概要 |
本研究では制御工学の観点から,物理システムへの影響を考慮したセキュリティ対策の高度化を目指す.とくに大規模なネットワーク系の協調制御の枠組みの中で,悪意のある攻撃者によりデータ改ざんや異常な情報発信・通信妨害等が生じた場合にも所望のタスクを達成するレジリエントな遠隔制御や分散アルゴリズムを開発する.本年度は主に以下の3つの成果を得た. ① レジリエント合意(1):合意達成のための分散アルゴリズムにおいて,異常に振舞うエージェントが含まれる場合に,その影響抑制のために外れ値に基づくレジリエントな手法を考案した.新たなアプローチとして2ホップ通信による手法を開発した.各エージェントは自身のデータに加えて近傍のデータの情報交換を行う.必要なネットワーク構造に関する条件を解析し,その優位性を示した. ② レジリエント合意(2):ゲーム理論の観点から,攻撃者と防御者がエージェント間の通信の妨害および復活を通じてネットワークの連結性に関する評価関数を争う問題を検討した.各プレーヤは攻撃・防御に必要なエネルギーが制約されており,最適な戦略を解析的に導出した.また合意問題への攻撃の影響の評価を行った. ③ 攻撃下のネットワーク化制御:通信を介して遠隔でフィードバック制御するシステムに対するサイバー攻撃を考え,安定性および通信量への悪影響を解析した.とくに通信データがジャミングやDoS攻撃を受けた状況を考え,攻撃者はエネルギー制約を受けるものとした.前年度に続いて,通信レートを考慮した場合や非線形システムに対して線形化に基づく制御系設計を行った場合について議論した. 上記成果の一部を American Control Conference (7月),IEEE Conference on Decision and Control(12月),自動制御連合講演会(11月)等で発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
制御理論の観点からネットワーク化システムのセキュリティに関して広く研究を進めることができた.さらに,引き続き取り組むべき課題が多くあり,次年度の新たな発展も期待できる.本研究では幅広いエージェント系のタスクに対して,高いセキュリティレベルを保証する分散アルゴリズムの枠組みを構築することを目標としている.こうした観点から,下記の課題にも取り組み,いくつか興味深い予備的な成果も得ている. ④ レジリエント合意(3):センサネットワークの時刻同期問題に対するパルス通信に基づく手法への応用を検討した.エージェント間の通信はパルスと呼ばれる短い信号がやり取りされるのみであり,情報に関する制約が厳しい問題である.物理分野で長く研究されているが,異常なパルスを発するエージェントを含む場合は殆ど研究されていない.当課題の成果を適用することで,効率的な同期手法を得ている. ⑤ レジリエント合意(4):動的にネットワーク内を移動する異常エージェントの問題を昨年度より引き続き検討した.計算機科学分野で従来より研究されている攻撃モデルであり,所属大学の情報系の教員らと共同研究を進めた.とくに異常がウィルス拡散により起こるとの仮定の下,ネットワーク内の異常エージェントの割合が感染症数理モデルに従うとした.正常エージェントは感染状況に応じて行動を変化させる形で制御を行う. ⑥ レジリエント合意(5):レジリエントな分散アルゴリズムの応用として移動型エージェントによるフォーメーション制御問題に取り組んだ.目的はエージェントが一列に並び移動することであるが,一部エージェントが規定のプロトコルに従わない場合にも,ロバスト推定の手法を援用し影響されずに移動できる手法を考案した. ⑦ 新たな研究として,脳神経ネットワークにおけるクラスター同期現象の数理的解析に取り組んだ.
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今後の研究の推進方策 |
本研究でこれまで進めてきた,制御工学の観点に基づく大規模なネットワーク化システムのセキュリティ対策の研究を引き続き継続すると同時に,新たな方向性の研究も探っていく.上記で研究実績として挙げた課題については発展させ,並行して新たな課題にも取り組み,より高度な制御手法や分散アルゴリズムを開発する.とくに下記の理論的な課題に取り組む予定である.研究成果の発表については,制御工学,分散計算・アルゴリズム等の国際会議や国際誌へ投稿する. ① レジリエント合意:マルチホップ通信に基づくレジリエント合意法をより高度にし,より悪意性の高い 攻撃に対する手法へと発展させる.一般的な次元のダイナミクスを有するエージェント間の合意問題についても検討を進める.通信が制約を受ける場合やデータ改ざん攻撃が含まれる場合を対象とする予定. ② 感染症モデル:コロナ禍において注目されている感染症の数理モデルについて,ネットワーク内のエージェントが感染症の影響で異常行動を取る場合を考え,その場合にも合意を達成し得ることを示したい. ③ 電力システムにおけるレジリエントな状態推定:電力システムのセキュリティの課題として分散的な状態推定問題を考え,ネットワーク内の観測値が改ざん攻撃を受けた場合にもロバストに推定性能を保証する手法を導出する.これまでネットワークを効率的に分割する手法を提案してきたが,その有効性について大規模な電力システムモデルに対する攻撃パターンを詳細に解析する. ④ ネットワーク化制御:ジャミング攻撃により通信妨害を受けるネットワークを介した線形システムの安定化の問題を考える.制御対象のシステムが確率的なノイズの影響を受ける場合について検討する.
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