本年度は,まず,生体分子システムの温度依存的なダイナミクスのモデリングの際に,昨年度までの研究で構築が完了していたマイクロ流体プラットフォーム(温度場依存性の解析用プラットフォーム)が有用であることを実証するための実験を行った.具体的には,DNAロジックゲートをマイクロ液滴に封入し,それらを温度勾配のついた可動式ステージ上に配置して経時計測することで,わずかずつパラメタの異なる多数の反応システムの温度依存的なダイナミクスを一度に計測し,そのデータを用いて反応系のモデリングに利用できることを確認した.なお,本実験用に用意したDNAロジックゲートは比較的単純な反応系ではあったものの,想定とはなる温度依存的なダイナミクスが観察された.そこで,作用機序の考察を行うためにマイクロプレートリーダーを利用した追加の実験を行った. 一方,理論研究では,(i) 第一原理モデル(微分方程式モデル)と強化学習を融合した制御器の設計法,および(ii) 不確かさのある反応系に対するロバスト性の解析法,という2つの方向性で昨年度までの成果に基づいてより発展的な成果を得た.(i)については,数理モデルが未知の非線形動的システムに対して,データ駆動的に線形近似システムの最適制御器を求めることで,強化学習器の学習回数を減らして学習を効率化する方法論の構築を行い,その有効性を数値例で確かめた.(ii)については,環境場によるパラメタの不確かさや動的な不確かさに対する生体分子システムの安定性や応答に関する複数の解析法を提案した.
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