研究課題
現在、活況を呈している有機デバイス開発においては、未解明な部分も多いデバイス動作機構など、基本的な問題を理解したうえで高性能な素子開発へと展開するシナリオが不可欠である。本研究では、動作下にあるデバイスを対象としたオペランド測定と我々が独自開発したイメージング技術を組み合わせ、デバイス実動作時における過渡状態評価からデバイスの動作機構解明を目指している。本年度はまず、有機ドナー/アクセプタ界面における励起子およびキャリアダイナミクス評価を行った。有機薄膜太陽電池ではドナー・アクセプタ(DA)界面において励起子が分離して光起電力が発生する。それゆえ、励起子分離の駆動力となる内部電界と発生するキャリアのダイナミクスを直接実験で明確化することがデバイス特性向上に不可欠である。ここでは、銅フタロシアニン(CuPc)とフラ ーレン(C60)の積層構造素子に対して、ピコ秒の時間分解能で電界誘起光第二次高調波発生 (EFISHG)をとらえることで、励起子生成から1.5 nsまでの時間領域においてDA界面近傍で発生する電界の過渡応答を直接観測した。まず、フタロシアニン単層膜において、ポンプ光励起によりSHG強度の減少し、1.5 ns程度まではこの減少が保持されることが分かった。続いて、DA積層構造にすると一旦減少したSHGが徐々に元に戻り、これは励起子分離によって発生した電界によるものと推察した。この結果は、一次元モデルシミュレーターからの支持され、電界強度や励起子拡散係数を定量的に評価することができた。
2: おおむね順調に進展している
現有しているフェムト秒レーザーシステムの中に、小型真空蒸着チャンバーを組み込み、チャンバー内にレーザー光を導入することで、成膜を行いながら真空を破らずに測定ができるセットアップとした。光遅延は1.5 ns程度までの時間変化を捉えられる設計となっており、時間分解能は約 0.2 psである。まず、この装置を用いて単層膜を評価した。真空中でガラス基板に蒸着されたフタロシアニン薄膜に、可視光のポンプ光と赤外域のプローブ光を同じ位置に照射できるようにし、ポンプ光によって生じた励起状態が、SHG強度にどのように影響するのかを調べた。その結果、ポンプ光照射直後からSHG強度が急激に減少し、その後は減少したまま一定の強度を保つことが分かった。これは、励起状態になることで非線形感受率が減少することを示している。続いて、フタロシアニンとフラーレンの2層構造サンプルを作成し、同じくポンプ/プローブ測定を行った。単層膜と異なり、最初のSHG強度減少後にSHG強度が徐々に回復することが分かった。このSHG強度の変化については、一次元の励起子・電荷輸送シミュレーターを自作して解析し、バルク中で発生した励起子が界面に拡散し、界面で分離することで形成される電界に由来することが分かった。
現時点で、研究のスタートとしては順調に進んでいると考えている。特に、一次元の励起子・電荷輸送シミュレーターを構築できたことで、SHGの強度の時間変化と、サンプル内部の励起子およびキャリア挙動との対応が取りやすくなった。オペランド測定という意味では、トランジスタ中のキャリア輸送挙動の評価と、輸送機構の解明も重要なトピックであり、来年度はこの点も集中して進めたい。以上、新しい現象や手法を取り入れながら電気測定・光学測定・理論計算という3つの柱により、より使えるオペランド測定手法の確立を目指す。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 12件、 招待講演 3件)
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