研究課題/領域番号 |
18H01473
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
間中 孝彰 東京工業大学, 工学院, 教授 (20323800)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有機エレクトロニクス / 非線形光学 / オペランド測定 |
研究実績の概要 |
現在、盛んに研究が行われている有機デバイス開発においては、移動度や動作効率などの数値目標の達成を目指した研究が優先されている感が否めない。もちろん、これらは優先すべき課題ではあるが、未解明な部分も多いデバイス動作機構など、基本的な問題を理解したうえで高性能な素子開発へと展開するシナリオも不可欠といえる。本研究では、動作下にあるデバイスを対象としたオペランド測定と我々が独自開発したイメージング技術を組み合わせ、デバイス実動作時における過渡状態評価からデバイスの動作機構解明を目指している。 本年度はまず、昨年度から行っている金属・有機半導体界面における励起子およびキャリアダイナミクスの評価を継続して実施した。金属/有機半導体界面(いわゆるショットキー界面)では、金属近傍の有機半導体は強い電界にさらされている。三酸化モリブデン(MoO3)上に蒸着した銅フタロシアニン(CuPc)薄膜に対して、ピコ秒の時間分解能で電界誘起光第二次高調波発生 (EFISHG)を評価し、数十ピコ秒という非常に高速な時間スケールで励起子分離やキャリア輸送が生じることを確認した。この結果は、実際の移動度や電界強度を用いたシミュレーションと良い一致を確認することができた。 また、TIPSペンタセンを用いた絶縁層/有機半導体層の同時成膜による有機トランジスタの特性向上に関する研究を行った。TIPSペンタセンは,絶縁性高分子材料との混合溶液から成膜することで自発的に相分離が生じ,多層膜が形成される。Alをゲート電極に用い,基板処理などで使用されるプラズマ処理による表面酸化処理と,絶縁性高分子を用いた相分離法と組み合わせ,絶縁性を確保しながら極薄のゲート絶縁膜を形成することで高移動度デバイスの低しきい値化に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度から継続しているCuPc/MoO3界面における励起子分離、キャリア輸送評価について、CuPc/MoO3界面からのEFISHG信号が数十ピコ秒のオーダーで変化し、このことから励起子分離やキャリア輸送が超高速な時間スケールで起こると結論した。実験と並行して、1次元ドリフト拡散シミュレーションを行い、光強度、銅フタロシアニン膜厚、初期電界を変数としてSHG時間分解測定では直接測定できない材料内部のキャリア・電界分布について検討し、EFISHGの変化は励起子分離で形成された電界によるものと結論した。また、光照射による表面電位の変化を測定し、シミュレーションでの励起子分離によるキャリアの拡散方向の整合性を確かめた。 一方、絶縁層/有機半導体層の同時成膜法による有機トランジスタの特性向上に関する研究では、まずブレードコート法における薄膜の形成速度を制御することで、低移動度と高移動度のサンプルを選択的に作製することに成功した。続いて、作製した薄膜の結晶構造を推定するため、低移動度と高移動度のサンプルに対してそれぞれEFISHG測定を行い、分子軌道計算を用いて見積もった移動積分の異方性と比較した。その結果、SHGと分子軌道計算から見積もられる異方性は強い相関があることが分かった。高移動度サンプルでは移動度が15 cm2/Vsに達し、TIPSペンタセンとしては、かなり高い移動度を得ることができた。また、数nm程度のAl2O3を形成したAl基板上に、相分離法を用いてポリスチレン層とTIPSペンタセン層を形成した。その結果、ゲート絶縁膜の絶縁性を損なうことなく薄膜化が実現でき、2 cm2/Vsを超える移動度を確保しながら、しきい値電圧が数Vと従来から約1/10に低減された低電圧特性を有するデバイスの作製に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で、研究は順調に進んでいる。昨年度、ペロブスカイトナノ粒子を絶縁性高分子からなるゲート絶縁膜に分散させた有機FETメモリについて、特にメモリの書き込み読み出し機構に関して、新たな知見が得られた。これも、これまでにない分光学的なオペランド測定によって明らかになったものであり、引き続き実験および解析を行っていく。また、以前検討していた、有機半導体中におけるアインシュタインの関係について、より適切なデバイスシミュレータを自作できたため、引き続き検討を行うこととした。
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