現在、盛んに研究が行われている有機デバイス開発においては、移動度や動作効率などの数値目標の達成を目指した研究が優先されている感が否めない。もちろん、これらは優先すべき課題ではあるが、未解明な部分も多いデバイス動作機構など、基本的な問題を理解したうえで高性能な素子開発へと展開するシナリオも不可欠といえる。本研究では、動作下にあるデバイスを対象としたオペランド測定と我々が独自開発したイメージング技術を組み合わせ、デバイス実動作時における過渡状態評価からデバイスの動作機構解明を目指している。 本年度は、これまで構築してきた独自のイメージング技術を用いたオペランド計測を活用して、材料中のキャリア輸送機構について検討した。有機半導体では、通常のアインシュタインの関係ではなく、状態密度に依存する量であるζを取り入れた一般化されたアインシュタインの関係を用いる場合も多い。しかし、このζの実験的な評価例はほとんどなく、可視化した過渡的なキャリア輸送からキャリア移動度と拡散係数を直接決定し、一般化されたアインシュタインの関係におけるζを見積もることができた。また、ペンタセンを用いたトランジスタにおける両極性キャリアの観測手法の確立に取り組んだ。電荷変調分光法において、ペンタセンの電子注入およびホール注入によるスペクトルを評価し、特に近赤外領域に現れるアニオン、カチオンピークから、スペクトル的にホール・電子の注入が分離して観測できることを示した。
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