研究課題
本研究の目的は「分極が不連続な人工界面」を用いて、単体の強誘電体では達成できない「可逆的かつ大きな分極回転」を実現することにある。具体的には、・分極の方位が異なる強誘電体/強誘電体人工界面における分極の遷移構造・分極の有無が異なる強誘電体/常誘電体人工界面における分極の渦(ボルテックス)構造の2つに着目し、エピタキシャル成長した急峻な人工界面を多数有する超格子薄膜を作製し、電場に対する分極応答を系統的かつ定量的に明らかにする。H31(R1)年度は、H30年度に引き続き「分極の方位が異なる強誘電体/強誘電体人工界面における分極状態と応答特性の解明」について研究を継続したほか、「分極の有無が異なる強誘電体/常誘電体人工界面における分極状態と応答特性の解明」の研究を開始した。前者については、(111)エピタキシャル成長した正方晶Pb(Zr,Ti)O3 (PZT)/菱面体晶PZT人工超格子薄膜の電界下放射光XRDで得られた超格子ピークプロファイルをフィッティングすることで、各層の圧電格子歪みを算出した。その結果、菱面体晶PZT層の圧電格子歪みが、正方晶PZT層のそれより優位に大きいことが明らかとなり、菱面体晶PZT層で電場印加による相転移が生じている可能性が示唆された。後者については、強誘電体として(PbxSr1-x)TiO3 (PST) x=0.9、常誘電体としてPST x=0を用いた人工超格子薄膜をSrRuO3/DyScO3基板上に作製した。成膜条件を最適化した結果、XRDにて面外方位に明瞭な超格子反射を示す急峻な人工界面を有する構造が得られた。さらに、両者の厚み(unit cell数:n)を系統的に変化させた結果、n=20のとき放射光XRDで面内方向に超格子反射が見られた。面内の周期を評価した結果、n=20で強誘電体PST層に分極のボルテックス構造が生成したことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、H31(R1)年度は「分極の方位が異なる強誘電体/強誘電体人工界面における分極状態と応答特性の解明」について研究を継続したほか、「分極の有無が異なる強誘電体/常誘電体人工界面における分極状態と応答特性の解明」の研究を開始した。両テーマ共に予定していた実験および解析が終了していることから、順調に進展している状況にある。
R2年度は計画通り、H31(R1)年度に開始した項目「分極の有無が異なる強誘電体/常誘電体人工界面における分極状態と応答特性の解明」に継続して取り組む。特に、強誘電体および常誘電体の組成範囲をさらに広げて超格子を作製するほか、作製した試料の分極状態を明らかにするとともに、電場に対する分極応答特性を解明する。進展に応じて次の項目「熱力学的現象論(ランダウ理論)による分極状態と応答特性の理論的解明」に進む。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Physical Review B
巻: 100 ページ: 104116
10.1103/PhysRevB.100.104116
http://enemat.nucl.nagoya-u.ac.jp