研究課題/領域番号 |
18H01478
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
堀出 朋哉 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (70638858)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 磁束ピンニング / 超伝導 / ナノロッド / 薄膜 / 臨界電流密度 |
研究実績の概要 |
2018年度はナノロッドを有するYBCO薄膜の77KにおけるJcをFp,maxが25GN/m3を超えるレベルにまで増加させることができた。本成果によりJcのチャンピオンデータを議論できるレベルの薄膜を作製できる状態になった。 異なるナノコンポジット構造(ナノロッドのサイズや間隔)を有する層を組み合わせてナノロッド多層膜を作製した。層間でナノロッドの間隔を変化させ、一部のナノロッドをセグメント化した構造では、低Jc層で優先的に磁束が運動することがわかった。これはナノロッド多層膜において磁束の不均一運動を制御できることを示している。 また薄膜をポストアニールすることによりナノロッドに横切るように積層欠陥が形成した。積層欠陥を形成するための駆動力はひずみであり、積層欠陥形成時にひずみが大きく緩和することが分かった。ナノロッドの間隔や体積分率によりひずみの大きさを制御することにより、積層欠陥の間隔が制御できることが分かった。また高分解能電子顕微鏡観察の結果積層欠陥に沿って原子面のシフトが観察され、この構造変化によってナノロッド界面の原子スケール構造が変化することが示唆された。このように積層欠陥によりひずみや原子面シフトの観点から界面構造が変化することがわかり、これらの結果として要素的ピン力が変化していることが期待される。このような観点から積層欠陥が磁束ピンニング特性に及ぼす影響を議論することで、原子スケール界面構造設計指針を明らかにしていくことが今後必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度はナノロッド多層膜の作製およびそのJc特性解析を行った。その結果ナノロッド多層膜では磁束運動が不均一になることが明らかになった。本成果はナノロッド分布を制御することで磁束ダイナミクスを制御できることを示しており、本研究の目的である磁束エンタングルメント制御を大きく進める基本技術になると期待できる。 またナノロッドを横切る積層欠陥を導入し、その形成機構を解明することにも成功した。YBCOの積層欠陥の構造的特徴を利用して界面構造が変化することも明らかになり、格子欠陥を用いたナノロッド界面構造制御の可能性を示す重要な結果を得ることができている。
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今後の研究の推進方策 |
高いJcを得るプロセス条件が定まってきた。実用IBAD基板上でも同等レベルのJcを実現していく必要があり、次のステップとしてバッファー層の開発などを進める。 不均一磁束運動を制御可能なナノロッド多層膜を基本構造としてさらなる構造制御を行う必要がある。これまではナノロッドを中心に議論してきたが、ナノロッド以外のピンニングセンター(ナノ粒子など)を多層膜に導入していくことで磁束挙動制御の可能性が広がると期待される。 本研究で作製した積層欠陥を導入したナノロッドの磁束ピンニング特性を解析することで原子スケール界面構造による磁束ピンニング制御の可能性を議論する必要がある。さらに組成による界面構造制御にも着手する必要がある。格子欠陥と組成による界面構造制御を組み合わせながら、最適な界面構造を探索することが期待される。
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