研究課題/領域番号 |
18H01479
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
高橋 和 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20512809)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シリコンラマンレーザー / フォトニック結晶 / 高Q値ナノ共振器 |
研究実績の概要 |
ラマンンレーザは、コヒーレント光、つまりレーザ光により励起されて発振するレーザであり、応用範囲が制限されやすい性格をもつ。また、微小共振器を用いるラマンレーザの場合は、閾値が小さくなる利点がある一方で、励起レーザの波長を特定波長に一致させる動作が不可欠となる。本研究では、これらの短所を克服するために、インコヒーレント光をラマンレーザの励起光として採用する。光源には、スーパールミネッセントダイオード(SLD)を用い、測定対象には、マイクロワット以下の超低閾値で発振する高Q値ナノ共振器シリコンラマンレーザを使う。3年の研究期間で、“高品質ナノ共振器では、非コヒーレント光励起で実用的な誘導ラマン利得を発生できるか”、という「問い」にたいして、卓越した試料作製プロセスと、精緻な顕微分光技術を駆使して「答え」を出す。 初年度は、複数のレーザサンプルにたいしてSLD光励起によるラマン散乱スペクトル測定を行い、自然ラマン散乱ピークが発生していることを確認した。誘導ラマン利得の発現には、低閾値化と励起効率の改善が効果的である。そこで、励起導波路数を従来の2本から1本に減らしたレーザを設計して、Q値を電磁界シミュレーションで計算したところ、従来よりも数10%高くなった。つづいてサンプルを作製して測定したところ、従来の3分の1以下まで閾値が下がった。発振メカニズムを調べるために、誘導ラマン散乱励起スペクトル(SRE)を測定したところ、従来のサンプルとは最高出力が得られる波長などに違いが見られた。現在理由を考察中である。 翌年度以降の研究に向けて波長1.2um-1.3 um付近の波長可変レーザを購入して顕微分光測定系に組み込んだ。また連携研究者である京都大学のグループとの共同研究により、新たな共振器構造を設計して、理論Q値を従来の数倍まで高めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の遂行には、以下の3点の課題を想定しているがそれぞれ順調に進めることができ、低閾値化など所望のの成果も得られたため。また、ラマンレーザに関するフルペーパー論文を5本(Physical Revieve Applied、Optica、Laser and Photonics Reviews、Journal of Lightwave Technology x 2)出版した。 【測定手法の開発】SLD光源や短波長レーザ光源を組み込んだ顕微分光測定系の構築を順調に進めることができた(担当学生:山下大喜)。また、今後必要となる測定装置の多くを研究費を用いて揃えることができ、今後、研究を担当する学生が測定手法を身に付けることができた(岡田博子、川勝太郎)。 【励起導波路構造の改良】上述の通り、励起導波路数を1本に減らしたサンプルを作製して励起効率の改善とQ値の向上が得られた。それにより、従来よりも閾値を3分の1以下に低減できた(川勝太郎)。 【共振器構造の改良】上述の通り、共振器構造を改良して、レーザ発振に利用する共振モードの設計Q値を従来より数倍高めることができた(浅野卓、野田進、連携研究者)。 【その他】ラマンレーザサンプルの作製プロセスの改善を、連携研究者とともに進めた。さらなる高Q値化、波長ばらつきの低減に役立つ知見が得られつつある。CMOSプロセスを用いたラマンレーザサンプルの作製を産業技術総合研究所と進めて、レーザ発振まであと一歩というところまで進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、励起導波路構造と共振器構造を改良したサンプル作製をおこない特性を評価する。とくに、Q値を向上した共振器で設計通りの高Q値が得られるのかを重点的に調べる。高Q値が得られない場合は、その原因を突き止めるとともにプロセス改善を行う。現状のプロセスは、ラマンレーザに対して最適化されておらず、原因不明のQ値低下もランダムに発生しているため、プロセス改善の余地は大きいと予想している。 測定系については、SLD光源の出力が戻り光により大きく変動するという問題が判明している。アイソレータを組み込むか、ARコーティングを施したオプティクスを利用して改善を試みる。SLD光源は、波長の柔軟性がないのも研究遂行の妨げとなる。特に我々が利用したい1.4 um帯にはSLD光源が少ない。また、不要な励起光をカットするためのバンドパスフィルターも市販されていない。波長の調整は、SLD本体を冷やすことで行い、同時に高出力化を実現する。すでに、初期動作に成功している。バンドパスフィルターが必要不可欠と判明したら特注することも検討するが、波長可変機能がなく、使用場面が制限されやすいので、優先度は低い。 インコヒーレント光励起による誘導ラマン利得を調べるために、2つの方法でラマンレーザサンプルを励起して(SLDとレーザの同時励起、レーザ励起のみ)、両者の結果を比較することで、レーザ発振の鍵となる学理を調べていく。SLD光とレーザ光による同時励起は、ファイバー結合器を用いて両者を合波する予定だが、強度がそれぞれ半分に下がるため、高感度検出が可能なロックイン検出を用いる。 論文執筆については、発振に用いる2つの共振モードの周波数差ばらつきの原因解明、CMOSプロセスで作製したシリコンラマンレーザ、波長ばらつきの低減に関する膜厚分析、高い設計Q値を持つ共振器構造について進める予定である。
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