最終年度は、Q値と励起効率を改善したナノ共振器シリコンラマンレーザを作製して、インコヒーレント光による誘導ラマン利得の精密測定を、3つの励起方法を駆使して行う予定であった.しかし、コロナ禍により、出張ができない期間が長く、サンプル作製回数を減らさざるを得なかった。そのため、ラマン利得の測定までは遂行できなかったが、以下に記すように、ラマンレーザの高品質化と応用研究では進展が多数あった。これらの成果は、4本のフルペーパーと3本のショートプロシーディングで発表して知財を1件出願した。今後、これらの改善を集合したサンプルを用いて精密測定を行い、インコヒーレント光励起によりラマンレーザ発振が可能かどうか結論を出す。 インコヒーレント光励起によるレーザ発振には低閾値化が重要であり、共振器のQ値向上と、励起効率改善が有効である。機械学習で共振モードのQ値を従来よりも17倍改善した共振器を設計した。さらに、ヘテロ反射ミラーを導波路に加えることで、励起効率を従来の5倍改善できることを数値解析で明らかにした。最終的に、これまでで最小となるサブ100 nWの発振閾値が得られた。 ラマンレーザの動作波長を、1.5 um帯より短くすることも、低閾値化に効果的と予想された。計画どおり、1.2 um帯においてラマンレーザを開発した。1.5 um帯のラマンレーザよりQ値が低かったにも関わらず、同等の閾値が得られた。この波長帯におけるQ値の向上は課題だが、動作波長を短くすることは低閾値化に有効であることを実証できた。 前年度までの研究過程で、ラマンレーザは、空間電荷(静電気)の検知に利用できる可能性が判明していた。計画どおり、プラス・マイナスどちらの空間電荷も検知できることを、誘導ラマン散乱励起スペクトル(SRE)測定を応用して実証した。さらに、インコヒーレント光励起が応用において有効であることを確認した。
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