研究課題/領域番号 |
18H01481
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
早川 竜馬 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (90469768)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子スピン / 量子ドット / 磁気トンネル接合 / 磁気抵抗効果 / トンネル電流 |
研究実績の概要 |
本申請課題では、孤立分散した磁性分子を量子ドットとして磁気トンネル接合に内包し、縦型トランジスタのチャネル層として用いることを提案している。トンネル接合に内包した分子に起因する単電子トンネル電流を観測し、分子スピンにより制御することを目的としている。 上記目的を達成するため、本年度は、1)分子を用いたトンネル2重接合におけるキャリア伝導機構の解明、2)分子を内包した強磁性電極トンネル接合における単電子トンネル電流の観測と磁場制御、3)磁性分子のトンネル2重接合への集積技術の確立と磁気抵抗効果の観測について取り組んだ。 キャリア伝導機構を明らかにするためにC60分子を用いたトンネル2重接合素子においてオーソドックス理論によるシミュレーションを行った。得られた微分コンダクタンス曲線は実験値と非常にいい一致を示し、分子の帯電エネルギーにより分子軌道へ単一電荷がトンネリングしていることを明らかにした(T.S. Basu and R. Hayakawa et al. ACS Applied Electronic Materials 3, 978 (2021))。 また、Ni81Fe19およびFeを用いた磁気トンネル接合にC60分子を内包した試料においても同様の単電子トンネル電流を観測することに成功した。さらに、正の磁気抵抗効果に加え特定の電圧において20 %程度の負の磁気抵抗効果を観測した。今後、分子に起因する現象かどうか検証する。 さらに、磁性分子として有機ラジカル分子をトンネル絶縁膜に内包する技術を確立した。分子軌道を反映したトンネル電流を観測した。また、6 Tの強磁場ではあるが正の磁気抵抗効果が観測された。同一分子を用いた単分子接合においても同様の結果を得ており、分子軌道が磁場によって変調されていることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目的であった分子を内包した磁気トンネル接合における単電子トンネル電流の観測とスピンバルブ効果による磁気抵抗効果を観測することに成功した。昨年度は再現性が乏しかったが、強磁性電極を磁場中で熱処理することにより改善した。また、通常の正の磁気抵抗効果に加え、特定の電圧において20%程度の負の磁気抵抗効果を観測した。今後、分子に起因する現象かどうか検証する。また、有機ラジカル分子を内包したトンネル2重接合内において分子軌道を反映したトンネル電流の観測と6 Tの強磁場ではあるが磁気抵抗効果が観測された点は大きな進展である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度において「非磁性分子を内包した磁気トンネル接合」と「磁性分子を内包した非磁性トンネル接合」について、それぞれ評価することができた。2021年度においては、上記技術を融合し、本課題のメインテーマである磁性分子を磁気トンネル接合へ集積し、分子スピンによる偏極スピン電流の制御を目指す。 本年度では、磁性分子に有機ラジカル分子としてオリゴ(p-フェニレンエチニレン)分子にニトロニトリル基を取り付けた有機ラジカル分子を用いたが、ターフェニルラジカル分子を用いることも合わせて検討する。上記分子はラジカル基が母体分子の軌道とπ共役となるため、母体分子を通るキャリアと強く相互作用すると期待される。そのため、磁気抵抗効果の改善が見込める。面内・面外磁場による磁気抵抗効果を評価し、分子スピンの伝導キャリアに与える影響について評価する。 最終的に上記磁気トンネル接合をチャネル層に用いた縦型スピントランジスタへ拡張する。縦型トランジスタの低電圧化に向けて、既存の原子層堆積装置において高誘電率絶縁膜である酸化ハフニウムを成膜できる環境を整えた。来年度、トランジスタを作製する際にゲート絶縁膜として用いることを検討する。
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