研究課題/領域番号 |
18H01483
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
佐藤 真一郎 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主幹研究員(定常) (40446414)
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研究分担者 |
西村 智朗 法政大学, イオンビーム工学研究所, 教授 (80388149)
出来 真斗 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 助教 (80757386)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 窒化ガリウム半導体 / ランタノイド / 量子センシング / 発光ダイオード |
研究実績の概要 |
今年度は、ナノスケール領域にPrイオン注入したGaNエピ膜にダイオード構造を作製し、自作した共焦点顕微鏡を用いてエレクトロルミネセンス(EL)発光の観測に挑戦したが、EL発光の観測には至らなかった。これは、ダイオードが縦型構造であり、Prイオン注入領域に発光に十分な電流が流れなかったこと、電極・GaN界面にバリア層が形成されており、良好なダイオード特性が得られていなかったことなどが要因として挙げられる。 一方、イオン注入したPr3+のフォトルミネセンススペクトルの変化からナノスケール領域の温度が計測できることを見出し、詳細なデータ蓄積と具体的な応用例等の検討を加えて、2件の特許出願を行った。励起光源としては共鳴励起光が適しているが、GaNのバンドギャップを超える紫外光励起でも同様にスペクトル変化による温度センシングが可能である。このことは、電流注入発光(EL発光)でも同様に温度センシングが可能であることを示唆しており、量子センサの電気的制御が実現しうると考えられる。 また、イオン注入したPr3+やNd3+からの発光の検出感度向上を目指して、ナノ構造やフォトニック結晶構造の導入による発光収集効率や発光レートの向上を検討し、実験的な試行を進めた。ナノピラー構造に導入したPr3+の発光は最大で20倍以上の発光収集効率の向上が実験的に得られ、光学シミュレーションの結果からは、最適構造に近づけることにより更なる向上が期待できることが判明した。また、フォトニック結晶構造については、具体的な微細加工プロセスについての条件を決定し、実際に高精度のフォトニック結晶構造を作製することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度では、GaNのナノスケール領域にイオン注入したPr3+のエレクトロルミネセンス(EL)発光の観測には至らなかったが、Pr3+のフォトルミネセンススペクトル変化を利用したナノスケール領域の温度センシング、すなわち量子センシングの具体的な手法を考案したため、おおむね順調な進展が得られていると考えている。引き続き、EL発光の検出およびそれを用いた量子センシングについて研究を進めるとともに、電界や磁界の検出方法についても検討する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続きナノスケール領域にPrイオン注入したGaNエピ膜にダイオード構造を作製し、自作した共焦点顕微鏡でエレクトロルミネセンス(EL)発光を観測するとともに、温度変化に伴うELスペクトルの変化を観測することで、レーザー光励起を必要としない量子センシングを実証する。また、HEMTエピ(AlGaN/GaNエピ)にイオン注入し、HEMTによるPr電流注入発光にも挑戦する。これらの実現にあたっては、イオン注入したPrに十分な電流注入が可能なクオリティのデバイス(ダイオード・HEMT)を作製する必要があるため、デバイス構造に加え、イオン注入条件(エネルギー・照射量・注入面積)や熱処理条件(キャップ材料・温度・時間)を再度検討する。さらに、電界や磁界の検出方法についても検討を行う。 また、発光強度の向上、すなわち、量子センサとしての感度向上を目的として、Prイオン注入したGaNエピ膜上にナノピラー構造を形成し、より少ないアンサンブル数のPr3+からの発光の検出を行い、究極的には1個のPr3+の発光検出を行う。Prイオン注入したGaNエピ膜に、電子ビーム描画・金属蒸着・ドライエッチング等の処理を施すことで、光学シミュレーションから推定される最適な構造のナノピラーを作製する。ナノピラー中Prからの発光観測およびナノピラー構造による発光収集効率の増加率について検討する。また、2台の光子検出器を用いた光子相関測定により、単一Pr3+の発光検出を確認する。 さらに、フォトニック結晶構造との光学カップリングによるNd3+の発光レート向上にも挑戦する。電子ビーム描画やドライエッチング処理を用いて、Nd3+をインプラしたSi基板上GaNエピ膜にフォトニック結晶L3共振器構造を作製し、発光レートの向上(発光遷移寿命の減少)を調べる。
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