研究課題/領域番号 |
18H01485
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
海住 英生 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (70396323)
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研究分担者 |
西井 準治 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (60357697)
長浜 太郎 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (20357651)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 誘電体 / 交流インピーダンス特性 / 表面・界面物性 / ナノ構造 |
研究実績の概要 |
近年、磁場によりキャパシタンスが変化する磁気キャパシタンス(MC)効果は、静的なスピン蓄積や動的なスピンダイナミクスに関する新たな学術的知見を与える一方で、高感度磁気センサ、省エネメモリ、大容量蓄電材料への応用も期待されていることから、国内外で大きな注目を集めている。これまでに、MC効果はマルチフェロイック材料、スピントロニクスデバイス、磁気スーパーキャパシタ、有機ヘテロ接合など、様々な物質・材料・デバイスにおいて発見されてきた。中でも、スピントロニクスデバイスにおける磁気トンネル接合(MTJ)は室温にて巨大なトンネル磁気キャパシタンス(TMC)効果を示すことから、世界中で精力的に研究が進められている。本研究課題では、MTJにおける電圧誘起TMC効果に着目し、従来値を凌駕する巨大なTMC比の達成とそのメカニズム解明を目指す。 本研究目標を達成するため、当該年度では、超高真空マグネトロンスパッタ装置を用いて、熱酸化Si基板上にCoFeB/MgO/CoFeBベースのMTJを作製し、磁場中交流4端子法によりTMC効果を調べた。CoFeB磁性層の膜厚は3nm、MgO絶縁層の膜厚は2nmとした。微細加工にはフォトリソグラフィーとイオンミリング法を用いた。接合面積は1800μm2とした。TMC効果の周波数特性、及び電圧依存性を調べた結果、200%を超えるTMC比の観測に成功した。また、実験結果は拡張デバイ・フレーリッヒ模型により定性的に説明できることもわかった。さらに、周波数変調と電圧誘起効果を利用することで、TMCの符号反転現象を見出すことにも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題を推進することにより、CoFeB/MgO/CoFeBベースのMTJを作製し、TMC効果を調べた結果、200%を超えるTMC比の観測にはじめて成功した。また、実験結果は拡張デバイ・フレーリッヒ模型により定性的に説明できることがわかった。これらの結果は研究実施計画に従って得られた研究成果であり、これにより令和2年度の研究内容を予定通り遂行できるものと考えられる。このような事由から本研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当該年度に得た学術的知見に基づき、強磁性層、絶縁層、及び絶縁層膜厚を最適化したマイクロ接合MTJ素子を作製し、更なる巨大な電圧誘起TMC効果の観測を目指す。TMC効果の測定には交流4端子法による磁場中インピーダンス測定システムを用いる。スピン依存ドリフト拡散理論と4次関数トンネル障壁近似を取り入れたデバイ・フレーリッヒ模型に基づく理論計算によれば、MTJに直流電圧を印加するとTMC比が劇的に増大する。TMC比の電圧依存性、及び周波数特性を詳細に調べることで、従来値を凌駕する巨大なTMC比の達成を目指す。 また、上述の実施計画と並行して、ナノ接合MTJ素子の作製基盤技術を確立する。これまで本申請者は磁性薄膜エッジを利用したナノ接合作製手法を独自に開発し、10×10nm2程度のナノ接合を作製することに成功してきた。今後は、本技術を応用することで、ナノ接合MTJ素子の作製技術を確立する。磁性薄膜にはNiFe合金、及びCoを用い、絶縁層にはMgOを用いる。各プロセスにおける構造評価に関しては、走査型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡、透過型電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分析法を用いる。電気的評価に関しては、直流・交流4端子法を用いる。磁気特性評価に関しては、磁気力顕微鏡、集光型磁気光学カー効果装置を用いる。以上により、構造・電気特性・磁化状態の観点から十分最適化したナノ接合MTJの作製を目指す。
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