研究課題/領域番号 |
18H01488
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
弓仲 康史 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (30272272)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高速インタフェース / 多値情報処理 / 高速信号伝送 / 等化回路 / 情報通信工学 / FPGA |
研究実績の概要 |
近年、極限微細化と革新的デバイス構造により数10GHzを超える高速動作可能なトランジスタが実現される一方、高速信号伝送における波形劣化によりデータ伝送速度が制限されVLSIシステム全体の性能を律速する問題が顕在化している。本研究は、データ伝送がVLSIシステム性能向上の本質であることに着目し、携帯電話等の無線通信で用いられている高度な符号化・信号処理技術を集積回路のデータ伝送の高性能化に適用することにより、高速信号伝送を可能とする配線主体のVLSIシステムの設計理論構築・実証から回路実装・評価に至る技術体系の構築を目的とする。
今年度は特に、IEEEの次世代高速データ通信規格で採用された多値符号化(0,1以上の多レベル信号による情報表現)に基づき、データ送受信回路とAD/DA変換回路を一体化した「デバイスを活かす新概念の高速信号伝送システム設計理論の構築」を目的とし、「FPGAと高速DA変換器を用いた高速任意波形発生装置の実現」および「高効率符号波形と波形等化アルゴリズムの実装」を検討した。
従来、高速信号伝送システムの評価はシミュレーションもしくは高価な測定器を用いた実測により行われていた。これに対し、開発した安価な高速任意波形発生装置により、PAM-4信号伝送の波形整形技術としてディジタルリッチな波形等化、帯域制限された高効率符号化、プリディストーションなどの各要素技術の実伝送路における評価を可能とすると共に、多値信号伝送システムのテスト等にも有効な手法であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は以下のような研究成果を得ると共に、その成果は、本分野において最も権威のあるIEEEの国際会議であるISMVL(多値論理国際シンポジウム)に採択されるなど、計画通りの進捗状況となっている。
[1] FPGAと高速DA変換器を用いた高速任意波形発生装置の実現:従来アナログ回路構成が主流だった波形等化回路構成において、AD/DA変換器を用いてディジタル領域で信号処理する手法が回路の高速化により実現可能となっている。実波形を用いた多値伝送方式の評価を目的とし、今年度は、送信回路を高速DA変換器とFPGAの構成によりエミュレート(模倣)可能な高速任意波形発生装置の開発を行った。特に、DA変換器とFPGA間のデータ転送方式の工夫により、高価で導入が困難であった高速な任意波形発生装置を安価に実現した。
[2] 高効率符号波形と波形等化アルゴリズムの実装:高速DA変換器とFPGAの協調設計と高周波回路実装および測定環境の構築により、多値(4値、8値)信号、Duobinary等の高効率符号化信号を実波形として発生させると共に、多値信号向け波形等化回路の簡易設計理論の検討とその実証を、作成した伝送路評価基板において測定し、評価を行った。さらに、送信回路の非線形性を考慮し、非線形性の逆特性であらかじめ信号を補償するPre-distortion技術の検証を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、符号化・信号処理技術に基づく高速高効率信号伝送の要素技術の理論的考察とそのVLSIシステムへの適用に関する検討を行い、H30年度の成果に基づき、以下のような「多値信号を用いた高効率信号伝送と波形等化技術の検討およびそのFPGAとDA変換器を用いたエミュレーションによる実証」を継続する。
[1] 高効率符号波形と波形等化アルゴリズムの実装による評価:昨年度までに開発したFPGAとDA変換器を用いた任意波形発生回路により、ディジタル構成の送信イコライズ技術および送信ドライバ回路の非線形性を考慮した波形生成として、非線形性の逆特性で予め信号を補正するPre-distortion技術の効果をエラーレート等により定量的評価を行う。また、現在策定中の4値信号伝送のテスト手法に関する調査を行い、受信アイパターンから各種信号品質評価パラメータを算出する手法を検討する。
[2] PAM-4信号特有の波形等化回路の検討:H30年度の研究成果として、遷移パターンが複雑なPAM-4信号の立ち上がり、立下りエッジを強調する新たな波形等化アルゴリズムを提案した。現時点ではアイ開口の改善に有効であることは確認されているが、設計理論が未確立となっている。今後、本送信イコライズ回路の伝達関数を導出すると共に、パラメータ設定方法、詳細な回路構成等をシミュレーションおよび任意波形発生システムを用いて実験的考察を行う。
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