研究課題/領域番号 |
18H01492
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
PHAM NAM・HAI 東京工業大学, 工学院, 准教授 (50571717)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スピントランジスタ / スピンバルブ / 量子伝導 |
研究実績の概要 |
本研究では、磁性体の超高速不揮発性メモリを内蔵する高性能な量子伝導スピントランジスタを実現し、トランジスタと不揮発性メモリの間のレイテンシを実質的にゼロにすることができる。本研究のスピントランジスタはノーマリオフ論理回路やニューロチップなどの非ノイマン回路に応用でき、ディープランニングや人工知能などの次世代コンピューティングの基盤技術を提供する。 そのために、去年度に強磁性金属から半導体チャネルへのスピン注入およびスピン検出効率を最適化するために、強磁性金属/半導体/強磁性金属からなる簡易な横型スピンバルブ構造を作製し、そのスピンバルブ比とスピン依存出力電圧の評価を行った。 まず、IV族半導体分子線エピタキシャル結晶成長装置(MBE)を用いて、Si基板上に高品質の強磁性金属/MgO/Ge/Siの積層構造を作製した。この多層膜を強磁性ソースとドレインに用い、チャネル長~20 nmのナノスケールSiスピンバルブ構造を極微細加工技術を用いて作製し、スピンバルブ効果の評価を行った。また、Mg層の膜厚を0.5-1.5 nmと系統的に変化させ、強磁性電極のスピン注入とスピ検出効率の最適化を行った。その結果、最大25 mVのスピン依存出力電圧および3.6%の逆スピンバルブ比を達成した。 次に、III-V族半導体MBEを用いて移動度が高いIII-V半導体チャネルおよびMnGaやMnAsの化合物強磁性金属からなるスピンバルブ構造を作製し、スピンバルブ効果の評価を行った。その結果、世界最高の12%のスピンバルブ比および33 mVのスピン依存出力電圧を達成した。これらの結果はIII-V族半導体量子伝導スピン電界効果トランジスタのポテンシャルを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IV族半導体スピンバルブデバイスにおいて、Si系スピンバルブデバイスとして世界最高の3.6%のスピンバルブ比と25 mVのスピン依存出力電圧を達成した。さらに、III-V族半導体スピンバルブデバイスにおいて、世界最高の12%のスピンバルブ比と33 mVのスピン依存出力電圧を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
■ IV族系量子伝導電界効果トランジスタ 去年にIV族半導体スピンバルブデバイスとして世界最高3.6%のスピンバルブ比を達成した。今後には、さらに高いスピンバルブ比を実現するために、IV族半導体MBEおよび原子層堆積法(ALD)を組み合わせて、Si基板上に高品質の強磁性金属/MgO/Al203/Siの積層構造を作製する。Al203を挿入することによって、MgOトンネル障壁の結晶性の向上が期待でき、MgO特有のスピンフィルタ効果により、高いスピン注入効率を実現する。そのために、Al203およびMg0トンネル層の膜厚や成膜条件の適化を行う。また、この多層膜から、チャネル長~10 nmの量子伝導Siスピンバルブ構造を極微細加工技術を用いて作製し、スピンバルブ効果を評価する。最終的には、SOI基板を用いて、バックゲート型電界効果トランジスタの構造の作製を試み、スピントランジスタとしての基本動作の確認を行う。 ■ III-V族系量子伝導スピン電界効果トランジスタ 去年度にはMnGaやMnAsの化合物強磁性金属およびIII-V族半導体チャネルからなる簡易なスピンバルブ構造を作製し、世界最高の12%のスピンバルブ比を達成した。今後には、さらに高いスピンバルブ比およびトランジスタ動作を実現するために、III-V族半導体分子線エピタキシャル結晶成長法および極微細加工技術を用いて、量子井戸トランジスタ(Quantum well transistor; QWT)を作製する。このトランジスタにおいて、チャネル長が短いことと、変調ドーピング効果による高い電子移動度が得られるため、量子伝導を容易に実現できる。また、本格的にIII-V量子井戸をチャネルとするナノスケールのスピンバルブ構造を作製し、そのスピンバルブ効果を評価するとともに、電界効果によるトランジスタ動作を試みる。
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