研究課題/領域番号 |
18H01501
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
津田 裕之 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (90327677)
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研究分担者 |
神成 文彦 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (40204804)
斎木 敏治 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (70261196)
桑原 正史 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 上級主任研究員 (60356954)
河島 整 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 総括研究主幹 (90356840)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光スイッチ / 相変化材料 / 光ネットワーク / 光通信 / 光導波路 |
研究実績の概要 |
電流駆動型相変化光スイッチの最適化設計法の確立と性能改善について検討した。Ge2Sb2Te5(GST225)薄膜においてITOヒータによる相変化構造の電流及び熱伝搬解析を行い、最適化構造を明らかにした。光スイッチは、シリコン細線導波路上に加熱用のITO(酸化インジウムスズ)膜と相変化材料を積層し、酸化シリコンで埋め込んだ構造である。ITO膜に電流パルスを流して、局所的に温度を上昇させて、相変化膜の相状態をアモルファス相と結晶相の間で切り替える。相変化光スイッチの消光比を20 dBとしたときのスイッチの損失及びクロストークを導波路-ITO、ITO-GST225層間距離をパラメータとして様々な形状について検討し、最適な構造を得ている。相変化材料低損失化のためにセレンを添加したGST225を作製し、蒸着膜の評価を行った。吸収係数が小さくなることを確認し、光スイッチへの適用を検討している。 非熱的相変化メカニズムの解明と相変化光スイッチの超高速化について検討し、サブナノ秒パルス印加による材料変化について検討を進めた。特に、非熱的アモルファス化(電子励起トリガー)を誘起する最適パルス幅とピークパワを検討した。 光パルス駆動型相変化光スイッチの並列スイッチングを目的として、面発光レーザの発光波長(850 nm、980 nm、1310 nm)において、エリプソメトリによる相変化膜のアモルファス相と結晶相における屈折率を測定した。 相変化光スイッチをベースとするプログラマブル光回路の構成と動作実証に関しては、光モードスイッチへの適用を検討し、空間分割多重光ファイバとの結合により、新規の光スイッチの構成を提案している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
顕著な成果はGe2Sb2Te5(GST225)セレン添加による吸収係数の低減である。試料作成は、石英管にGST225とセレンを封入して加熱融解して行う。セレンを添加した合金を抵抗加熱して、蒸着膜を作製するとアモルファス相の薄膜となる。この薄膜の温度を上げていくと、アモルファス相から結晶相に転移し、同時に、光学反射率が変化する。セレン添加率を高めるに従って結晶化温度が145度(無添加)から224度(50%)に上昇し、安定度が上昇した。添加率を変えた薄膜試料の複素屈折率をエリプソメトリで評価した。その結果、光スイッチとして動作させる波長1550 nmにおいて、複素屈折率の実部が結晶相の場合に1.69(無添加)から0.35(50%)に、アモルファス相の場合に0.18(無添加)から0.009(50%)になることを明らかにした。 相変化材料の大きな屈折率変化を利用し、シリコン導波路上の相変化材料の相状態を制御することで、伝搬モードを変化させる構造について検討を進めている。具体的には、2本のシングルモード導波路からの基本モード伝搬光を結合し、基本モードと1次モードを励振し、相変化材料を装荷したシリコンマルチモード導波路に入力する。相変化材料を制御することによって、基本モード伝搬光を1次モード伝搬光に、逆に、1次モード伝搬光を基本モード伝搬光に変換して出力する光モードスイッチの構成を提案した。また、基本モードを入射した場合に、基本モードかあるいは1次モードがどちらかに変換して出力するモード変換器の構成も提案した。
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今後の研究の推進方策 |
相変化材料の光スイッチに利用する場合の性能指数を向上させるために、引き続き吸収係数の小さい材料設計と探索を進めて行く予定である。実験的には、セレンを添加したスパッタリングターゲットを用意して、様々な条件で良質な薄膜を作製し、吸収係数の波長依存性を評価して最適な組成と成膜条件を明らかにする。また、理論的検討として、第一原理計算に基づいてバンド構造を計算して、実験結果と対応させて材料組成に反映させる。セレン以外の添加についても理論と実験の両面から検討を加えていく予定である。様々な条件で作製した相変化膜の組成、構造を、EDX、ESCA、GD-OEX、SIMSやEXAFSなど様々な測定で明らかにする予定である。 また、相変化膜に光パルスを照射して、相変化メカニズムを検討すると共に、相変化条件を明らかにする。様々な波長での相変化を確認する。シリコン導波路上に相変化膜を配置して、光パルス駆動によるスイッチングを確認し、適切な材料選択を行う。さらに、ITOをヒータとする相変化光スイッチを構成して光スイッチとしての性能評価を実施する。
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