研究課題/領域番号 |
18H01503
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
下村 和彦 上智大学, 理工学部, 教授 (90222041)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シリコンフォトニクス / 半導体レーザ / 有機金属気相成長 / 集積化技術 / InP |
研究実績の概要 |
本研究課題においては、シリコン基板上高効率化合物半導体レーザの室温連続発振の実現、シリコン導波路との高効率光接続方法の実証、そしてシリコン光回路と化合物半導体レーザのハイブリッド光集積回路の検討を行う。また異種材料接合基板上における結晶成長機構を解明する研究を行う。 平成30年度の研究において、量子井戸構造を活性層に導入したシリコン基板上量子井戸レーザの研究において進展があった。量子井戸層として1.5μm帯GaInAsP、障壁層として1.2μm帯GaInAsPを用いて有機金属気相成長法によりSCH構造量子井戸レーザをInP薄膜をシリコン基板に直接貼付けした基板を用いて成長した。われわれの有機金属気相成長装置において、Ga,In,As,Pの系統はそれぞれ1系統しかないため、組成の異なる量子井戸層と障壁層を成長するには、成長層を切り替える際の成長中断時間が重要となる。この政党中断時間を最適化し、レーザのしきい値電流密度が最低となる結晶成長条件を把握した。これによりブロードレーザ構造において、活性層がバルク構造であるレーザと比較して、しきい値電流密度が大幅に低減することを実証した。またしきい値電流の絶対値を低減するために活性層幅を低減したメサ型レーザを作製した。特に活性層の下部のクラッド層までメサを形成したハイメサ構造レーザにおいてはパルス電流動作ではあるが、130mAのしきい値電流を達成した。これはメサ幅が20μm程度であり、今後さらにメサ幅を縮小することによってしきい値電流が低減し、室温連続発振が達成できると期待している。またレーザとシリコン基板上のパッシブデバイスとの光接続を行うために、段差のあるシリコン基板にInP薄膜を直接貼付けし、結晶成長を行う方法を検討した。さらに活性層に量子ドットを導入したレーザ構造を実現するための結晶成長の予備実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シリコン基板上にInP系の半導体レーザを実現する方法としてわれわれが提案した方法の有効性を実証してきた。これまで半導体レーザの活性層はバルク構造であったが、平成30年度の研究において、量子井戸構造を導入した。われわれの有機金属気相成長装置が原料ラインがそれぞれ1系統しかないので、組成の異なる量子井戸構造を結晶成長する条件が難しいと考えていたが、成長中断時間を最適化することによって、バルク構造を大幅に下回るしきい値電流密度を達成したことが大きな進捗となった。これによりメサ型レーザの試作によりしきい値電流の絶対値が低減でき、InP基板上の半導体レーザに近づくことが出来たことが大きな成果となった。ただしInP基板上レーザとシリコン基板上レーザのしきい値電流には差があり、同等のしきい値を得ることが課題である。 シリコン基板上のパッシブデバイスとの高効率な光接続を達成するために、段差のある基板上にInP薄膜を直接貼付けする方法を検討した。半導体レーザとパッシブデバイスを直接結合(バッドカップリング)する方法が最も効率が良く、また本提案方法はこれが可能であり、その基礎実験を行い、今後実際のデバイス同士の結合を行うための準備ができた。 さらに半導体レーザの活性層として量子ドット構造を導入するために、Stranski-Krastanov成長モードによってシリコン基板上InAs量子ドット構造成長の予備実験を行った。 以上のように当初の研究目的を実現するための基礎実験を完了し、次年度の実験を行うための検討事項を浮き彫りにできたことにより、おおむね順調に研究は進展している、と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
シリコン基板上半導体レーザにおいて量子井戸レーザが有効であることを実証した。ただしシリコン基板上レーザを成長する際には、シリコンとInP系化合物半導体の熱膨張係数の差に注意する必要がある。シリコンとInP薄膜は400℃程度において親水性貼付けを行っているが、レーザ構造を結晶成長する温度は600℃以上であり、この際、シリコンとInPの熱膨張係数差が問題となる。逆に、量子井戸構造を成長する際に、量子井戸層と障壁層に意図的に歪を導入すれば、この熱膨張係数差を克服することが可能と考えている。これまでの量子井戸構造はInPと格子整合した組成を使用していたが、今後は歪量子井戸構造を導入することを検討している。シリコン基板上の量子井戸構造を成長する場合の歪制御方法を検討し、結晶成長機構を解明することが重要と考えている。 またメサ型レーザをこれまで試作してきたが、活性層がむき出しとなっている構造は長期的な安定性、素子寿命等に影響があると思われる。活性層を半導体で埋め込んだBuried Hetero構造(BH構造)を導入することを検討している。この場合には、有機金属気相成長の回数が2回あるいは3回となるため、シリコン基板とInP薄膜層の貼り付き強度が課題となる。本提案方法が複数回の結晶成長において問題となるかどうかも含めて検討する必要がある。 シリコン基板上のパッシブデバイスとの光結合においては段差基板上への結晶成長、あるいは有機金属気相成長法による選択成長法を検討し、高効率な光結合方法を検討する。 さらに活性層として、量子ドット構造により、しきい値電流をさらに低減して、室温連続発振動作を目指す。
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