研究課題/領域番号 |
18H01505
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
村上 勝久 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (20403123)
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研究分担者 |
山田 洋一 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (20435598)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | グラフェン / 六方晶窒化ホウ素 / 平面型電子放出デバイス |
研究実績の概要 |
本研究はGraphene/h-BN積層構造を利用した平面型電子放出デバイスを開発し、絶縁層および上部電極での電子の非弾性散乱の抑制により、電子の放出効率と放出電流密度を飛躍的に向上させた超高効率平面型電子放出デバイスを創出することを目的している。また、Graphene/h-BN積層構造に流れる電子の伝導機構の分析、電子放出効率の膜厚依存性、放出電子のエネルギー分析を実施することにより、これまで詳細に研究されていない、グラフェン、h-BNのc軸方向に対する10 eV帯の低エネルギー電子の散乱確率や平均自由行程を明らかにする。最終的に、電子放出効率数十%、放出電流密度数百mA/cm^2の超高効率平面型電子放出デバイスを実現し、原子層物質のへテロ構造を用いた新しいデバイスを実証することを目的としている。2019年度は、Graphene/h-BN/n-Si積層構造から放出した電子線のエネルギー分布の計測を実施した。その結果、Graphene/h-BN/n-Si積層構造から放射される電子線のエネルギー幅は0.28 eVであり、従来最もエネルギー単色性が高い実用化されている電子源であるタングステン冷陰極(0.3 eV)を凌駕する単色性を有することが分かった。また放出電子のエネルギースペクトルはSi基板の電子状態を反映したエネルギー分布であった。Graphene/SiO2/n-Si積層構造の平面型電子放出デバイスの放出電子のエネルギー分布はSiO2での電子散乱により熱平衡状態に起因する対称的な形状であり、エネルギー幅は1~1.7 eVであったことから、絶縁層にh-BNを用いることで絶縁層での電子散乱を劇的に抑制できることが分かった。本成果をACS Applied Materials & Interfacesで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画より早期にGraphene/h-BN/n-Si積層構造の平面型電子放出デバイスから放射される電子線のエネルギースペクトル評価を実施することができた。さらに、放出電子のエネルギー分布が、従来最もエネルギー単色性の高いタングステン冷陰極を凌駕するエネルギー単色性を示すことが分かった。これは、平面型電子放出デバイスの絶縁層での電子散乱を、絶縁層にh-BNを使用することで劇的に抑制できることを示している。本成果は、10eV帯の低エネルギー電子線に対するh-BNの電子散乱機構や非弾性平均自由行程を明らかにする上で非常に重要な知見となり得る。また、産業的にもタングステン冷陰極を凌駕する新しい電子源の実現につながる重要な成果であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
放出電子のエネルギースペクトルの下地基板の電子状態依存性や、エネルギースペクトルの実験結果とシミュレーションによる比較等により、h-BN層での電子散乱機構や電子の非弾性平均自由行程等を調査する。また、2019年度末に導入したh-BN用のCVD装置を用いて、h-BN層のCVD成膜によるGraphene/h-BN/n-Si積層型の平面型電子放出デバイスの作製を行う。
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