研究課題/領域番号 |
18H01506
|
研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
田中 泰司 金沢工業大学, 工学部, 准教授 (40377221)
|
研究分担者 |
藤山 知加子 法政大学, デザイン工学部, 教授 (60613495)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 床版 / 疲労 / 材料劣化 / 非破壊試験 / レーダー / AI / データ同化 |
研究実績の概要 |
橋梁やトンネルなどの道路インフラの老朽化は喫緊の課題である。特に道路橋床版の維持・更新には、全体の半分以上の予算が必要とされており、維持管理の合理化が求められている。しかし、現状の道路床版の点検は、目視で行われており、診断精度が低い。それによって重大事故の発生リスクと不要な対策を講じることによる損失リスクを抱えている。そこで、本研究では道路床版の点検・診断において、これまでに個別に研究開発されていた非破壊・解析技術を統合化し、実用的なシステムを研究開発することを研究目的とする。当該年度においては、本研究の核となる、非破壊試験データを用いた床版の余寿命予測解析手法の開発を行った。対象とする非破壊試験方法は当初、電磁波レーダーと高解像度画像の2つとした。種々の検討を行った結果、劣化度の評価を行うにはこれだけでは不足しており、コンクリート強度に関する非破壊または微破壊データも不可欠であることが明らかとなった。 余寿命評価を行うための技術検証として、当該年度は画像からのひび割れ検出について、ディープラーニングによるAIモデルの学習・検証データとして、約200万枚の画像に対してひび割れの有無のラベリングを行った。この正解ラベルによって作成されたAIモデルの検証を進めた。 電磁波レーダーによる滞水状況検出の精度を確認するために、床版取替えが行われる橋梁を対象にレーダー計測を行い、劣化箇所の推定を行ったうえで、滞水箇所を明らかにするために樹脂注入を行い、実際の劣化状況の確認をすべく、床版を細かく切断する作業を行った。 また、塩害と凍害、疲労による複合劣化が生じている道路橋床版を対象とした荷重車載荷試験を実施し、たわみや加速度などの計測を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、当該年度において、1材料劣化(特に凍害)が生じた床版に対する余寿命評価技術の開発、2余寿命評価で使用する非破壊試験技術を用いた損傷劣化度推定方法の検証、3モニタリングと解析技術の検証を目的とした実橋床版の載荷試験、の3つの課題に取り組む計画としており、いずれの課題も順調に着手し、研究が進捗している。余寿命評価においては、材料劣化機構別に劣化の程度に応じた構造性能への影響度の整理と、劣化度の計測方法が整理されたことで、現実的な試験・評価方法の構築の目途が立った。床版の余寿命評価に使用する非破壊試験として、レーダー信号処理と高解像度画像の2つを組み合わせて使用するのが、本研究の特徴的な点である。これらの非破壊試験技術の劣化度評価精度を検証すべく、前者については高速道路の取替え工事に伴う撤去床版を検証体として準備することができた。また、後者については大量の高解像度画像に対してひび割れの正解ラベルを準備した。本格的な検証作業は次年度に実施することになるが、そのための準備が当該年度に予定通り完了することができた。実床版の載荷試験については、寒冷地にある高速道路において凍結抑制剤が散布され、塩害と凍害の複合劣化が進行した実橋を対象とした荷重車載荷試験を実施した。次年度以降に行う検証解析のデータを取得できた。このように、いずれの項目もおおむね予定通りに実施できたので、全体的な評価として、おおむね順調に進展していると判定した。
|
今後の研究の推進方策 |
材料劣化が生じた床版の余寿命評価手法について、当該年度の取組みによって、当初計画には入っていなかった、コンクリート自体の強度に関する劣化度を評価することが不可欠であることが判明したので、その評価を可能とする非破壊試験方法の選定と劣化度推定方法の検討を当初計画に追加して実施する。また、凍害を受けた床版の耐疲労性の評価方法については、完全に定量化するには至っていないので、文献収集をふまえた上で定量評価法の検討を進める。 レーダー信号処理の精度検証については、当該年度までに検証の準備ができたので、今後、検証作業を進める。また、検証体の詳細な材料実験を行い、床版の劣化メカニズムの分析を行う。高解像度画像のAIひび割れ判定技術については、すでに構築しているディープラーニングのモデルの適用性を様々な事例に対して適用して、検証を進める。また、ひび割れの有無の判定だけでなく、ひび割れ幅の推定もディープラーニングで行うために、超高解像度ひび割れ画像を取得し、ひび割れ幅の分析作業を行い、これをAI学習/検証データとして使用してモデルの作成を行う。 実橋床版の載荷試験については、当該年度に得られた計測データを用いて、データ同化解析による評価の再現性の検証を行う。
|