研究課題/領域番号 |
18H01520
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
判治 剛 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (80452209)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 疲労き裂 / 維持管理手法 / 鋼橋 / き裂進展性 / 残留応力再配分 / 面外ガセット溶接継手 |
研究実績の概要 |
既設橋梁の長寿命化にむけて,合理的かつ戦略的に維持管理するためには,鋼部材に発生した疲労き裂に対して,その進展性を考慮した上で健全度を判定することが望ましい. 鋼橋の疲労き裂のほとんどは溶接継手部から生じることから,溶接残留応力場でのき裂進展予測のための残留応力再配分挙動を明らかにする必要がある.今年度は,鋼橋において疲労き裂の発生件数の多い面外ガセット溶接継手に焦点をあて,き裂進展による残留応力の再配分挙動を明らかにするとともに,面外ガセット継手を含む橋梁全体系モデルに対する有限要素解析を実施し,き裂進展に伴う全体挙動の変化を検討した.得られた主な成果を以下にまとめる. ・面外ガセット溶接継手のまわし溶接止端から発生した疲労き裂を対象に,その進展に伴う残留応力の再配分挙動を解析により検討した.溶接による熱履歴をシミュレートした上で,有限要素解析プログラムに実装されている要素の削除機能を用いてき裂の進展を再現することを試みた. ・解析結果より,き裂が進展しても,板厚,板幅方向ともに,き裂先端で高い引張の残留応力が維持されるように残留応力が再配分されることを示した.つまり,初期の圧縮残留応力場にき裂先端が達した場合でも,残留応力の再配分により,き裂先端には引張の残留応力が生じることを示した. ・面外ガセット継手を含む多主桁橋をモデル化し,そのまわし溶接部から生じたき裂の進展による荷重再配分挙動や応力拡大係数の変化を検討した.その結果,限界き裂長に近い100mmを超えるようなき裂をウェブガセット溶接止端に導入しても,橋梁全体系としての挙動はほとんど変化せず,主桁の荷重分担割合はき裂の有無によらずほぼ同程度であった.このことは,多主桁橋においてウェブガセット溶接部から生じたき裂の進展性を評価する場合,き裂を有する主桁1本のみを切り出して解析すればよいこと意味する.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有限要素解析により溶接残留応力の再配分挙動をおおむね明らかにすることができ,さらに,当初は次の課題と考えていた実橋モデルに対するき裂進展解析に移行できたことから,おおむね順調に進んでいると考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究は以下の流れで進める. ・解析により残留応力の再配分挙動をおおむね表現できることから,ここではその技術を援用し,溶接継手や比較的大型の部材試験体のき裂進展予測を行い,その妥当性を実験により検証する. ・さまざまなタイプの疲労き裂が実橋において報告されているが,その中で実例が多いものを抽出して実橋におけるき裂進展シミュレーションを行う.一般に鋼橋の疲労き裂は,複数の部材の組み合わせによる複雑な応力場に生じるものが多く,その場合は隣接する部材の影響は無視できない.これらを忠実に再現するために実橋全体をモデル化し,ズーミング手法を組み合わせて計算時間の短縮をはかる.荷重には,大型車重量のばらつきを考慮するため,各管理機関で計測され,公表されている交通流を用いる. ・き裂先端の応力拡大係数が材料の破壊じん性値に達するときを疲労限界状態とし,次回点検までにその状態に達しない限界き裂長を明らかにする.得られた結果から,き裂を進展性などに応じて分類し,どの部位に発生したき裂が進展しやすく,どのき裂が遅いのか,また限界き裂長が長いき裂と短いき裂という早見表を示す.
|