研究実績の概要 |
既設橋梁を合理的かつ戦略的に維持管理するためには,鋼部材に発生した疲労き裂に対して,その進展性を考慮した上で健全度を判定することが望ましい. 鋼橋の疲労き裂のほとんどは溶接継手部から生じる.一般に,溶接継手の疲労寿命は,疲労き裂が主板を貫通するまでに要した繰返し回数として整理される.一方で,鋼橋はさまざまな部材の組合せにより構成されており,継手単体の疲労寿命と橋梁システム全体の疲労限界状態が一致するとは限らない.今年度は,典型的な鋼橋の例として,多主桁橋を用いた疲労き裂進展解析を実施し,き裂進展における各段階までの繰返し回数が疲労限界状態に至るまでに占める割合を明らかにした.主な検討内容を以下に示す.ここでは,き裂進展過程でぜい性破壊は発生しないと仮定している.また,これまでの検討を基に,き裂進展経路上の残留応力場の影響は無視している. ・標準的な鋼鈑桁橋におけるウェブガセット継手を対象とし,溶接止端から生じたき裂が下フランジを貫通した時点を橋梁の疲労限界状態として,それまでの疲労寿命を明らかにした.具体的には,大型車の重量や交通量,走行位置を変化させて実交通流を模擬するとともに,溶接止端形状(止端半径,止端角)やき裂進展則の材料特性(c, m, ΔKth)の分布を考慮した進展解析を実施した. ・その結果,疲労き裂がウェブ(板厚9mm)を貫通するまでの繰返し回数は全寿命の25~50%程度であり,この時点を限界状態とすると過度に安全側になる可能性を示した.このときのき裂長さは20mm程度である. ・材料の破壊じん性値を用いたぜい性破壊発生の検討の足掛かりとして,本研究では,極低温下での破壊じん性試験が可能な試験システムを独自開発し,その妥当性を示した.今後は,この試験システムも用いながら既設橋の破壊じん性値のばらつきを把握し,健全度判定のための限界き裂長の提示を行っていく.
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