研究課題/領域番号 |
18H01523
|
研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
小野 祐輔 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (00346082)
|
研究分担者 |
飛田 哲男 関西大学, 環境都市工学部, 准教授 (00346058)
野口 竜也 鳥取大学, 工学研究科, 助教 (20379655)
河野 勝宣 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (60640901)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | AHP法 / GIS / 常時微動 / 平成30年北海道胆振地震 / 2009年パダン地震 / 地すべり / Tandikat |
研究実績の概要 |
2009年インドネシア・パダン地震の際に発生したTandikat地すべりを対象に,Smoothed Particle Hydrodynamics(SPH)法による数値解析を実施した.対象地域のDigital elevation modelから入力データを作成し,ビンガム流体により土砂の流出範囲を計算した.これまで計算を行ったケースでは,小規模な土砂の移動に留まっており,実被害の状況を再現するに至っていない. 平成30年北海道胆振東部地震および平成28年熊本地震により発生した斜面崩壊を例に,斜面崩壊分布の特徴および両地域の共通点について調査した.さらに,インドネシア Tandikat地域における地質および地形データの収集,古期地すべり地形の抽出を試みた. 平成30年北海道胆振地震の震源域および2009年インドネシア・パダン地域の地震地すべり箇所において,微動および地震観測を実施し,地盤震動特性と地盤構造の関連を把握し,地形地質との関連性について検討した.また,地形地質について,既存の地形データやボーリングデータ,表層地質図,被害報告,論文などの情報収集を行い,大局的には地震地すべり発生と地盤構造との関係が把握できた. 1G場において加振による地すべり発生機構に関する模型振動台実験を行い,地震動の振動数,振幅,斜面の表層厚などの特性が斜面の動的な安定性に与える影響について考察した.また,斜面全体の変形を捉えるための動画撮影を行った.本実験における地盤の固有振動数は,乾燥砂地盤で約20.6Hz,含水比3%の地盤では約10.1Hz程度,含水比10%では約11.0Hzであった.今回の実験では,固有振動数に関係なく入力地震動の加速度振幅が大きい場合に斜面崩壊が起きることを確認した.滑動距離は,入力地震動の振動数が固有振動数に近いほど大きなものとなった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値解析においては,2019年度は平成30年北海道胆振東部地震において広域的に発生した地震地すべりの三次元再現解析を予定していた.しかし,これらの地すべりは微細な崩壊が多数重なり合った性状を有しており,現状では計算能力が不足していることがわかった.そのため,より単純な特性を持つと想定された2009年パダン地震によるTandikat地すべりを解析の対象とし,研究を行った. 中国地方,北海道地方,九州地方など,地域指向性を備えたAHP法に基づく地すべりハザード評価手法の開発については,当初の予定通り概ね完了しており,その成果を論文として公表あるいは執筆中である.また,インドネシア Tandikat地域における地質および地形データの収集,古期地すべり地形の抽出についても順調に進展しており,地すべりハザード評価手法の妥当性の検証と地震地すべりへの拡張に向けて,必要なデータが整った段階にある. 微動観測は順調,地震観測は遅れている.微動や地震動H/Vの特徴や推定した地盤構造モデルより,地すべりを引き起こした堆積層の速度構造が明らかになりつつある.今後は新たにボーリングや地質情報などの資料を集めて,地盤構造モデルの妥当性について検討し,適宜修正が必要していく.また,得られた地盤震動特性や地盤構造モデルと地形地質との関係について,より詳細に検討する. 実験については,風化層を想定した乾燥砂層(表層)の下部に三次元的な谷地形(岩盤)を有する斜面模型傾斜角20度)に対する1G場加振実験を行った.これまでの実験結果から,地震地すべりの発生要因としては,地震動特性よりも表層の地盤条件と加速度振幅の影響が大きいことが示唆されている.2020年度は,これまでの結果を精査するための遠心模型実験を行い,地震動の固有周期(山の揺れ方)と地すべり発生の相関について詳細に考察する.
|
今後の研究の推進方策 |
計画通りインドネシアに渡航し,カウンターパートとの共同での現地調査及びワークショップを開催する予定である.ただし,昨今の国内外の情勢により,現地への渡航が実現しない場合には,カウンターパート側で実行可能な範囲で常時微動観測と地震観測を依頼する.また,インターネットを活用したオンラインでのワークショップを適宜実施することにする. まず,地震地すべりを再現する数値解析法の開発においては,複数地点で発生した流動体の相互作用により,平野部への土砂流出距離が増大する現象に焦点をあてて取り組む.また,この数値解析結果の妥当性を確認するための模型実験を実施する.次に,AHP法を用いた地震時の斜面崩壊ハザード評価においては,平成30年北海道胆振東部地震および平成28年熊本地震により発生した斜面崩壊を例に,両地域における斜面崩壊分布の特徴および共通点を明らかにし,高精度化を行う.一方,地震地すべり地形における地下構造推定と地震動増幅特性においては,これまでに観測で得られた微動および地震データを用いて詳細に解析する.解析方法としては,H/Vの算出により卓越周期や地盤増幅特性の把握,位相速度分散曲線の算出により地盤構造モデルの推定を行う.これらの解析結果と当該地域の地形や地質との対応を調べて,地震地すべりが発生する地盤条件を検討する.さらに,地すべり発生機構に及ぼす地震動増幅特性に関する検討においては,2018年度,2019年度の模型実験結果を受け,2020年度は,岩盤地形が表層の地すべり発生にどのように影響するかをより詳細に観察するため,遠心力載荷装置を用いた動的実験を実施する.これにより,表層の厚さと入力振動数の関係について調べ,地震動特性と地すべり発生の関連について考察する.さらに,2018年北海道胆振東部地震で発生した地すべりのすべり面の土に対し室内試験を行い,強度特性等を明らかにする.
|