研究課題/領域番号 |
18H01549
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小槻 峻司 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 研究員 (90729229)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | データ同化 / 水文 / 衛星観測 / 土壌水分 / 数値天気予報 / 全球陸面再解析 / NICAM-LETKF |
研究実績の概要 |
本研究では、水文観測情報をデータ同化・天気予報システムにより統合的に同化し、中期天気予報、及び、河川流量、旱魃指数、穀物収量等の水文予測精度の改善を図る。大気・陸面は互いにフィードバックするため、両者を統合的に同化することで相乗効果がもたらされ、大気・陸域水循環の状態推定が、双方共に改善されることが期待できる。 平成30年度は、理化学研究所で開発が進められている全球大気データ同化システムNICAM-LETKFの高度化を行った。データ同化により得られるモデル誤差に関する情報を高度利用し、モデルパラメータの最適化を行うとともに、モデル自体を改良する手法の開発を行った。ここでは解像度112 kmのNICAMを用いて研究を行い、この解像度の降水予測にインパクトが大きいと考えられる大規模凝結スキームのパラメータの1つを選んだ。このパラメータを、JAXAにより開発されている全球衛星観測降水マップGSMaP を用いてデータ同化でパラメータ推定を行い、海上に広がっていた弱い降水分布が改善されていることを実証した。 加えて、陸域観測データの同化システムを開発した。NICAMにはMATSIRO陸面モデルが結合されている。LETKFで陸域観測データを同化し、MATSIROやNICAMの変数を同化するシステムを開発した。衛星観測データには不確実性も含まれるため、まず水文観測同化に向けた最初のステップとしてGlobal Land Data Assimilation Systems (GLDAS)から得られる陸面変数を観測データとみなして同化することとした。同化する変数を土壌水分値とし、同化のインパクトを見た。その結果、特に湿潤域において、NICAMの土壌水分の乾燥バイアスを改善する良好な結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、下記3点の研究遂行計画で進められている。総じて、当初の計画通りに研究は進捗している。(c)で示すように、本研究で開発を進めているNICAM-LETKFシステムがリアルタイム化されたことは大きな進捗である。これにより、本研究で開発・高度化した研究成果は、リアルタイムに計算されている全球同化システムに応用可能な状況が整ったと言える。 (a) 初期値の改善: 大気・水文統合データ同化システムの開発: 今年度に基本的なシステムを開発済みであり、次年度以降の円滑な研究進捗が見込まれる。 (b) モデルの改良: アンサンブルデータ同化を用いた大気・水文モデルのパラメータ推定: 今年度システムの開発・実験を進め、全球衛星観測降水データを利用したモデルパラメータ推定により、NICAMの降水予報を改善する結果を得た。成果をまとめ、論文を発表した(Kotsuki et al., 2018; JGR)。 (c) 予測の応用: 大気・水文情報のリアルタイム予測: NICAM-LETKFは2018年11月から、JAXAスーパーコンピュータシステム(JSS2)上で準実時間の動作を開始した。このシステムはNICAM-LETKF JAXA Research Analysis (NEXRA)と名付けられ、JAXAの公式HP上でも公開されている(https://www.eorc.jaxa.jp/theme/NEXRA/index_j.htm)。今年度は、このリアルタイムシステムを用いて、平成30年7月豪雨の予測可能性調査も遂行した。平成30年7月豪雨は、西日本から北海道にかけて甚大な被害をもたらした。 NEXRAを用いて、特に豪雨最盛期・7月6日頃の西日本の雨に注目し、総観気象の観点から豪雨の予測可能性を調査を進め、成果をまとめて論文を発表した (Kotsuki et al., 2019; SOLA)。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画 (a)を進めることが、次年度の基本方針となる。大気・陸域データ同化では、大気(陸域)の観測データを大気モデル(陸面モデル)の変数更新にだけ利用する弱結合同化が一般的である。本研究では更に、大気(陸域)の観測データで陸面モデル(大気モデル)の変数更新を行う強結合データ同化について調査を進める方針である。今年度は、GLDAS)から得られる陸面変数を観測データとみなして同化していた。この実験では、強結合同化の優位性を示す、良好な結果を確認していた。データ同化・予報サイクルを継続し、土壌水分値同化が大気場に与える影響を調査すると共に、他の水文観測データについても同化システム開発・実験を進める方針である。また、衛星実観測データの同化実験にも着手する。 モデルパラメータ推定手法を気候計算に応用する方法についても検討・実験を進める。気候計算では、地球システムの放射バランスを適切に保つことが重要であり、モデルの放射バイアスの緩和のため、モデルパラメータのチューニングが必要となる。このチューニングは通常手作業で行われており、膨大な計算コストと人的エフォートが費やされている。今年度に開発した手法を応用し、放射バイアスの緩和を目的にデータ同化によるモデルパラメータ実験を遂行していく方針である。
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